罠-8
電車に揺られながら数十分前の出来事に何度も自己嫌悪に陥った。しかし、いつものパートより長く乗る電車のおかげで少し落ち着きを取り戻して、冷静に考えてみた。万が一あのビデオが世に出たとしても何十万本というAVの中で知り合いに見られる確率などほとんどないだろうと言い聞かせた。それにフルネームも連絡先も言っていないし、あの人達も私を特定するのはほとんど無理だろうと思い、連絡してくることもないはずである。何度も何度も言い聞かせて自宅まで戻り、着く頃にはかなり落ち着きを取り戻していた。
「ただいまー」
念の為、娘を放課後の学童に預ける事にしていたので、帰宅していないはずであるが一応声を出してみて、反応が無い事を確認するとホッとしてソファーにへたりこんだ。カバンから取り出した白い封筒から中身を取り出してみた。1万円札が三枚。さっきより生々しく感じて慌てて財布に入れ、封筒はビリビリに細切れにして、キッチンのごみ箱に入れた。その足で脱衣所に行き、ようやくびしょびしょに湿った下着の不快感から解放された。シャワーのついでにその下着を下洗いしようとお風呂に持って入った。匂いを嗅いでみる。いやらしい匂いが鼻の奥まで届き、さっきの淫靡な光景が頭に広がり、思わず足を強く閉じる。指でアソコを触ってみると、まだ十分にヌルヌルしていた。ダメダメと自分に言い聞かせてシャワーの水量を強く出し、アソコのぬめりと全身にまとわりつく淫靡な匂いを慌てて洗い流した。下洗いした下着を洗濯機に入れていつものメニューをセットし、替えの下着と替えの服に着替えてようやくいつもの日常に戻った気がした。もう忘れよう…そう心に唱えていつもの家事にスイッチオンした。
「明日も早いからもう寝るわー。」
夕食後にテレビを見ていた私に声をかけた夫は、あくびをしながら寝室に消えていった。自分自身も風呂上がりの濡れ髪を乾かし、夫の眠る寝室に入る。マイホームを買った時からベッドは別々だ。夫はすでにいびきをかいていた。いつもの事だが早く帰った日も私の体に興味を示さない。夫のセックスがどんなのだったかはもう思い出せないなと自分のベッドに横になりながら考えていると、昼間の事が脳裏に浮かぶ。自然と左手はノーブラで着たパジャマ代わりのTシャツの上から乳首を摩っていた。そして右手は薄手のスウェットの中に滑り込み、下着の上から割れ目とクリトリスにかけてなぞり上げる。石井さんのやらしいボイスが脳内で蘇る。石井さんに言われたホテルでの続きというのを妄想してしまっていた。セックスの感覚は忘れているが、昼間に潮吹きした時の感覚で石井さんに苛められて犯される妄想を重ねる。寝てる夫に絶対に気付かれないように、声は出さない。タオルケットを強く噛んで我慢する。いつもの自慰より興奮したのかすぐに絶頂してしまった。そして罪悪感に包まれる。自分のはしたなさに自己嫌悪する。何考えてるのかしら…どうかしてるわ…とため息をついて、自分自身に呆れているうちに眠りに落ちていた。