緊縛緊迫禁忌禁断-5
『大丈夫、兄さん。私たちなら、出来るから。きっと出来るから。』
「どうした?出る気になったか?」
「出ないさ。」
「なんだ、そんな余裕な目をしても何の策もないことぐらい分かっているぞ。」
「出ない。何故なら…」
「むっ?」
「入るのさ!」
俺は社長に憑依した。
「ぐ…同時憑依に続いて多重憑依だと?黒ちゃんに憑依してるオレに憑依してしまうなんて…。やれやれ、なんというやつだ。」
「勝負、ついたな。」
俺は社長に憑依したままルナから出た。ルナは全裸で全開のままになっていた両足を慌てて強く閉じ、手で胸を隠した。
「降参だよ。キミ、強すぎ。憑依を解除してくれないかな。もう悪さしないからさ。」
「その前に、憑依力をいただいておこうか。」
「用心深いね。でも、そんなことをしたらキミも動けなく…うお…」
俺は社長から出た。彼は床にうずくまった。
「何で動けるんだ?オリジナル7じゃないのに。まいったね。」
「兄さん、大丈夫なの?」
「うん、大丈夫みたい。それにしても、もうちょっとでルナと出来たのになあ。止めるなよ。」
「…したい?私と。自分の意志でなら、私は…いいよ。」
「だ、ダメー、それダメなやつだから。」
社長が床に胡坐をかいた。
「作戦は失敗したけど、目的は果たせたみたいだし、良しとするか。」
「何だよ、目的って。」
「ん、あのね…」
その時、勢いよくドアを開いて誰かが飛び込んで来た。
「社長、ボロボロじゃないですか。」
声に聞き覚えがある。ありまくる。もちろん、姿にも。
「ミユキちゃんじゃないか!」
「いやあ、キミの来るのが遅いから、やられ放題だよ、緑ちゃん。」
「緑ちゃん…って、もしかしてそうなの?ルナ」
彼女は無言で首を振った。
「ああ、彼女ね、うちの職員だよ。緑のセイレーン。」
「なんでルナも知らないんだよ。」
「緑ちゃんはね、潜入工作員だから、知ってるのはごく限られてるんだよ。というわけでキミをずっと見張らせてたんだけど…部屋に居るのが分かってて、何で報告してこなかったの?おかげで黒ちゃんをヘトヘトにさせなきゃ見つけられなかったよ。」
「ごめんなさいね、ルナさん。でも、私…」
「うん、分かるわ。気にしないで。」
男二人は顔を見合わせた。
「さっぱり分からん。」
「同じく。」
「あ、だけどね、ミユキちゃんを協力者として選んだのは私なのに、それがたまたま仲間だったってこと?」
「ルナさんはそう思ってますよね。でも本当は逆。ルナさんに私を選ばせたの。」
「まさか!記憶改変…。」
「そういうことです。それにしても…。あなた、あいかわらず無茶なこと考えるわよねえ。」
ミユキちゃんの口調が突然変わった。社長にため口だ。
「え、何?オレ、キミの上司なんだけど。」
「私よ、分からないの?最愛の妻の顔を忘れるなんて。まあ、あの時とは顔が違うから覚えてても意味ないんだけどね。」
「お、おい、緑ちゃん、キミってまさか…。」
「そうよ。ずっと近くに居たのに、あなた全然気づいてくれなかったわね。」
それってつまり、ミユキちゃん、二重に化けてたってこと?
「でも、目的は果たせたみたいね。」
「うん、そうなんだ。期待以上だよ。」
「何の話だよ。」
ミユキちゃんは社長と顔を見合わせ、話し始めた。
「オリジナル7については知ってるわね?」
「うん、ルナから少し教わったよ。」
「とても強力な憑依者であることは間違いないんだけど、無敵というわけではないの。私たちにとって一番の脅威は何だと思う?」
「それは…他の7からの攻撃?」
「正解。デモ隊に戦車突っ込ませたら戦車の楽勝でしょ?でも、戦車同士なら…。」
「その例え、大丈夫?」
思わず訊いてしまった。
「とにかく。安全でいるためには常に優位に立てるだけの能力を必要とするの。でも、オリジナル7はその発生から今日に至るまで進化が止まってしまっている。理由は分からないけど。おそらく、その必要がないほどに完成された存在として、天井にぶつかってしまったんじゃないかしら。というわけで、兄妹で近親相姦させて、強制的に進化を促して打開を試みた、ということよね?あなた。」
「ああ、その通りだ。」
「むちゃくちゃだな。」
「ええ。しかも自分の子供たちで試そうなんて。」
「は?自分の子供たち?」
「あら、あなた言ってないの?」
「うん、やりにくくなると思って。さっきだってもう少しのところだったのに、兄妹なのがバレて逆襲くらったぐらいだからね。」
社長が俺たちの父親?っで、ミユキちゃんがその妻?おいおい。
「ミユキちゃん、もしかして、俺の実の母さんなの?」
「そうよ。」
「そうよ、ってそんなあっさりと…。俺、ミユキちゃんに入って二人でさんざんあんなことしたんだけど。」
「いいじゃない、カラダは違うんだから。」
よくないと思う。
「そのうえ、自分の娘のカラダにあんなことしたわけ?しかも息子の俺が入ってるのに。」
「何?なんの話?兄さん。」
「あー、いやいや…。」
「まあ、戻ってきたときのカラダの状態で察しはつくけど。」