いいから脱げ-1
「なんとか出来ないの?」
「ムリだよ、本人同士の問題だろ。」
「じれったいじゃない。さっさと連れ込めばいいのに。」
「まあそうだけどさ。」
古い洋館が立ち並ぶ観光地の、石畳の坂道にあるオープンカフェに俺とミユキちゃんは居る。観光地の店なんて、高いだけでたいしたこと無いだろうと思っていたのだが、なかなかどうして。俺と同様、珈琲にうるさいミユキちゃんも納得のクオリティーだ。しかし、道を挟んだ向かい側にあるお城のような建物がなんともミスマッチだ。
今、一組の男女がその前に立っているのだが、入りそうで入らない。女がイヤがっているのではない。男の方が踏み切れないで居るのが見ているだけで分かる。ここまで来ておいて何やってるんだか。ミユキちゃんがなんとかならないの、って言いたくなるのも分かる。
「オトコの方に入っちゃってさ、性欲バンバン上げてやるとか。」
「うーん、俺がみたところ、性欲の方は既に十分だと思うよ。後は勇気?」
「そっか…。ね、もうちょっと近くで様子見てみない?」
「おせっかいだねえ。」
とりあえず店を出て、ラブ…お城のすぐ隣にある小さな公園のベンチにミユキちゃんと並んで座った。なんでこんなところにベンチが、なんて野暮なことを言う奴は居ないだろう。
「どうするの?話があるっていうからここまで来たんだけど。用がないなら帰るわよ。」
「ごめん…。」
ハア、と女がため息をついた。
「そもそもね、なんで部下の私にタメ口きかれてるの、情けない。」
「だって、その方が話しやすいだろ。」
女はもう一つため息をつき、天を仰いだ。
「あなたってば、これだから、まったく、情けない。」
女にみつめられ、男は石畳の地面に視線を落とした。
「仕事できない、スポーツできない、頭悪い。それでも外見が良ければまだ良かったのに。上司ったって、お情けでもらった肩書きじゃないの。せめてそれを利用して威張るくらいのことが出来ないの?」
「ボロクソだね。」
ミユキちゃんが囁いた。
「あれだけ言っといて、なんで帰らないんだろう。」
「まあ、いろいろあるんだろ、オトコとオンナは。」
男はうつむいて何かボソボソ言っている。
「違うって言うの?」
「違わない…けど。」
「けど何?っていうか、何でここなの?まさか連れ込んで何かしようってつもり?」
「いや、あの…。」
ミユキちゃんが俺の腕を揺すった。
「ねえ。」
「分かったよ、しょうがないなあ。」
俺はベンチから立ち上がり、偶然を装ってすれ違いざまに男の手に触れた。
思った通り、彼の中は彼女に対する好意と性欲がバースト寸前だ。だが、それよりも強烈な恐怖心が充満し、身動きがとれなくなっている。女性に対するなんらかのトラウマだろうか。
よし、ひとつ試してみよう。
「入るぞ。」
男がいきなり女の手を掴み、グイっと引いた。
「な、なによ、いきなり。まあ、そんなに私と入りたいんなら、入ってあげないこともな…」
「いいから来い。」
「ちょ、ちょっと…。」
女は躊躇いながらも逆らわず、手を引かれるままにお城に入った。
相談もしないでバーンとパネルを叩いて部屋を選び、キーをとってどんどん進んでいく。女は素直に着いていく。
部屋に入るなり女の頭を掴み、唇を合わせた。
「むぐぅ?」
男がもう一度頭を強く抱き寄せると、女は脱力し、彼に寄りかかった。
「ねえ…シャワー、どっちが先にする?」
女が虚ろな目で訊いた。
「いいから脱げ。」
「え?シャワーぐらい使わせてよ。私、けっこう汗かいてるわよ。」
「かまわない。今すぐお前が欲しいんだ。」
「そんな…い、いいわよ、そんなに私が欲しいなら、自分の物にしてみなさいよ。」
オトコは無言でオンナを抱き抱え、ベッドに降ろした。上からのしかかり、顔中に唇を這わせながら乱暴に脱がせていく。
「丁寧にしてよ、結構高かったんだからね、この服。」
「破れたら買ってやる。」
「帰りはどうするのよ。」
「ちょっと黙ってろ。」
ブラウスの前を大きく開き、ゴージャスなブラをめくって乳房を揉みしだく。噛みつくように先端を舐め回すと、オンナが悦びの声を漏らし始めた。
「あ、ああ…そんなに激しく…いいわ、したいならしなさいよ。あ…。」
オトコは口の動きを続けたまま、スカートの帯を外した。巻き付けるだけの構造になっているスカートはあっさりと前を開き、シルクの豪華な下着が表れた。
オトコが下着に手をかけ、足首まで一気に引きずり降ろすと、オンナは膝を重ねて身をよじった。
「隠すな、開け。」
「なによ、えらそうに。そんなに見たいなら見せてあげるわよ。しょうがないから。」
オンナはオトコの目を潤んだ瞳で見つめ、恥ずかしそうに少しずつ足を開いていった。
「それじゃ見えないじゃないか。膝を立てろ。」
「こう…かしら。」
オトコは答えず、自分の服を全て脱ぎ捨て、オンナに覆い被さった。
「え?待って。ナマじゃ…。」
「俺の子を産め。嫌か。」
先端はもう入っている。
「そんな急に言われても…。」
オトコが体重をかけていく。オンナは逆らわず、受け入れていく。
「ああ…。」