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祭りの日の儀式
【若奥さん 官能小説】

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種の岩伝説-1

 この町の夏祭りは、毎年7月の最終金曜日から、土、日と三日間行われる。
 神社を中心に、駅前のメインストリート周辺(メインストリートと呼べるほど立派なモノではないが)はこの期間だけ盛り上がる。
 地方の小さな町では、他の同様な町と同じで人口流出特に若者の町離れは顕著で、町民の高齢化に歯止めがかからない。
 特に目立った産業もないこの町では、近いうちに限界集落が多数出現するであろうと囁かれているほど。
 そこで、町に残った若者たちは、『焔民(ほむらたみ)』と呼ばれる「町を活性化させる促進活動をする会」を結成し、町の行く末を考える場を作るなどして、地域の活性化に力を注いでいる。会は、会長の下、3人の副会長と5人の理事を中心に、会員20人の計30名ほどの小さな寄り合いではあるが、精力的に活動していることで町中から一目を置かれる存在になっている。
 焔民というネーミングからもわかるように、この町は古くから火を信仰する習わしがあり、祭りの中心となる神社も火を崇める神社として知る人ぞ知る存在でもある。
 十数年前までは、祭りは神事であることから宮司と氏子を中心に進められていた。が、この若者たちから町興しの一つとして祭りを盛り上げたいとの要請を受け、長い長い協議の結果、多少のイベント色を取り入れていくことになった。

 人口減少一途の町ながら、夏祭りだけは地元出身者の帰省もあって、町全体が賑わう。
 祭りの大元である神社は、火をご神体とする火炎崇拝として崇められてきた。年に一度開催される夏の大祭(夏祭り)は火祭りとして、近隣市町村からも多数の観客が訪れるこの辺りではちょっとした有名催事事である。
 一般的な火祭りは、炎をこれでもかと言わんばかりに焚き上げ、業火とも表現できるような勇壮な姿が有名だが、この町の祭りは、高さ50cmほどのご神木に松明の如く火を灯し、それを氏子たちが消えないよう町内の各家庭に分けていくことがメイン。
 古くは電気の無い時代。灯りや調理、暖を取るための手段として火を活用していた。消えてしまえば、冬などは生命に関わる一大事。そんな時にいつでも火が手に入るよう火纏人(ひまといびと)という町中の至る所に『御火所』を設置し、火を崇めたのがこの神社の由来らしい。
 競い合うようなことも無ければ、観ているものの心を揺さぶるような大きな炎になることもない。消さないことを第一義とするために、勇壮と言うよりは粛々が似合う。それだけに、他の火祭りのようにメジャーにはなれず、祭りが村興しにはつながっていなかった。
 しかし数年前、テレビの報道番組の椀コーナーで、このひっそりとした祭りが古式ゆかしき姿でありながらも、その粛々とした姿と、暗闇を小さな灯りがゆらゆらとする様は、幻想的風景を奏でていると紹介されると、翌年には今までにないくらい大勢の観客が大挙して訪れるというこの町始まって以来の大騒動にまで発展してしまった。

 須永臣吾は、この町出身で高校を卒業後東京の料理専門学校に入学、調理師の免許を取得し都内のイタリアンレストランで腕を磨いた。本場イタリアでも2年ほど修業した経験もある。
 イタリアから帰国後、地元で小さなイタリアンレストランを開いた。妻のみなみも、都内在住時にはカフェで働いており、将来カフェを経営したいと言っていたこともあって、田舎ながら自分たちの店を持てることには、二つ返事で地元への移住に賛成してくれた。
 オープン当初から都内と比べると集客は困難だけれど、家族3人が食べていくには十分な収入を得ることが出来ている。こんな片田舎にしては上々の評判だと言えるだろう。ひとえに親友である元村悟が口コミで拡散してくれたお陰でもある。
 20年ぶりに近い故郷へのUターンも思いのほかすんなり溶け込めた。それも彼の口利きによるところが大きい。
 元村は町役場に勤めながら、焔民の発起人の一人として地域活性化の一翼も担っている。そんな元村の熱い思いに共感を得た須永も焔民に参加し、少しでも町が元気になるよう活動している。
 そんな田舎暮らしも3年が過ぎ、周囲の協力もあってすっかり地元民となった須永一家は、臣吾が活性化事業に関わっていることもあって、様々なイベントに参加している。その多くは、自分の店の移動店舗として地元の素材を使ったメニューを提供すること。地元の人たちと接する良い機会でもあり、移動店舗をきっかけに来店してくれる客も増えたことは、地域活性という大義名分だけではなく、稼業の経営面でも存分に寄与してもらっている。

 祭りまで1ヶ月と迫ったある日、焔民の面々は定例会に参加していた。今回の定例会は、須永の店で行われていた。
 「本番まであと一ヶ月。いよいよ準備も佳境に入ってまいりました。今年初めての試みもございますので、会員の皆様にはしっかりと準備万端整えていただきますようお願い申し上げます」
 会に先立ち、火祭り実行委員会の会長から挨拶があった。
 祭りは『火祭り実行委員会』によって企画、運営されている。焔民からは、会長の柏英二と副会長の元村悟が実行委員に名を連ね、企画・広報部隊として主に集客に関する部分を担当している。
 人を集めるためにはどうするのかを検討し、具体化を進めてきた。集客目的で開催されるサブイベントも準備し、今回は特に若者やファミリー層の開拓に取り組んできた。
 実行委員長は、挨拶が終わると、他の寄り合いがあると言って早々に帰って行った。

「委員長さんもお帰りになったし、いつものようにリラックスしてやろうや」
 焔民の理念の一つとして、自主性が重んじられている。これは参加から行動まで個人が自主的に行動し、楽しく参加することが長続きするという考え方によるもの。
 人間誰しも気持ちのテンションにムラがある。やる気満々の時もあれば、今ひとつやる気が起きない日だってある。


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