温泉旅行-6
和室の座椅子に体を預けたあの人は脚首を掴んで眺めているようだった。
「何してるのかしら?」
「変なことしてます」
嘘でしょ。
私は爆笑を堪えることで必死だった。
「えーと。何を見てるのかしら?」
「うるさいなぁ。集中できないよ」
これがあの人の本当の姿だ。やっと辿り着いた。これがあの人の本当の姿なんだ。ホッと肩の力が抜けていた。この人、純粋な子供のまま大人になってる可哀想な男よ。自分に言い聞かせるように確認していた。脚首を掴んで時折下着を覗き、思い出したようにふくらばきを揉む。これがこの人のルーティンなのかしら。あの人を見つめながら「好きにしていいわよ」と囁き目があったら何度も練習してきた可愛い笑顔を魅せる準備はできていた。
「美奈子さん。今、何考えてますか?」
「何も考えてないわ」
「違いますよ。何を感じてますか」
「正直なところ。まったく感じてないわ」
「やだなぁ。違いますよ。そっちじゃないです」
小麦色に焼けた体を仰け反らせながら真面目に私を見上げていた。
「ちょっと待ってね。えっと待ってね。待ってぇ。やっぱ無理」
声を出して笑ってしまっていた。あれだけ鏡に向かって練習した笑顔を見せれなかった。お腹が痛くなるほど笑ってしまっていた。
「そんなに面白いですか?」
「やだ、やめてよ。苦しい、苦しいぃ」
足をばたつかせながら笑ってしまっていた。和室の座椅子で勃起を反らせながら、脚を揉んで、たまにパンツを覗く。馬鹿でしょ!心から笑ってしまっていた。引き笑いでお腹が痛かった。
「素敵な笑顔です。お湯見てきますね」
誠実にまっ裸のあの人は、浴室に肩を揺らしながら歩き始めていた。
素敵。あなたのこと本当に好きよ。あの人の背中に向かって心の声を掛けてあげていた。