快楽堂治療院3-2
豪快な笑い声を上げながら、徳太郎は治療室の机の上に自信作を並べてゆく。
「こいつぁー我ながら傑作だな」
「こっちは前の奴の改良型だ」
あれこれ言いながら、様々な形をした器具を取り出す。
「おい、親父…新作の前にこっちの奴、部品交換してくれないか?」
神崎は、先ほど点検したいくつかを並べ、メンテナンスを依頼する。
「ほら、こいついいだろ?極限までリアリティを追求してみたんだ」
神崎の申し出を聞いているのかいないのか、徳太郎は手に持った器具を振り回しながらそう言った。
「なっ?!」
徳太郎の手には、はっきりと男根を象った張型らしきものが握られている。
「型どりは俺のだ」
ガハハと笑いながら自慢げにそう言う。
「…馬鹿親父」
「そうゆうのは駄目だって、いつも言ってるだろ?」
「かぁー、このセンス…わかんねぇかなぁ〜」
「センスって…どこがだよっ?!」
「まず、ここよ!」
徳太郎が根本に付けられたスイッチを入れると、男根全体が膨らんだり縮んだり収縮を始めた。
「ちょっと触ってみな」
「嫌だよ!」
「なんだケチな男だな…」
「こいつぁ、中に温度計が仕込んであってよ、常に周りの温度より5度高い温度になるように自動でコントロールしてくれるって寸法だ。」
「冷え性の奴でも、そいつに合った温度が常にキープされるってワケよっ!その上、指圧効果もバッチリだぜ」
その表情は自信満々だ。
「あのなぁ…親父…」
「機能面は認めるけど…形が悪い」
神崎はキッパリとそう言う。
「俺が使ってるのは、淫具じゃ無いんだ。あくまで医療用具なんだから、露骨なものはやめてくれって言ってるだろ?」
「露骨なって…この形が一番理にかなってると思うがな…」
「患者が不安になるだろ?わかれよ」
「ちっ…つまんねぇ野郎だな。ちったぁ洒落ってもんがあった方がいいんだよ…」
徳太郎はブツブツ言いながら、手にした器具を鞄に戻す。
その後も、クリ○リスの皮を剥いたまま固定させる器具(鍼灸用)、貧弱な乳房を吸い上げて按摩する器具など、数種類の道具を披露したが、どれもこれも神崎に却下され、すっかり自信を喪失した様子で既存の器具のメンテナンスを始めるのだった。
「あ、そうそう…これ、最近調子が良くなくて使って無いんだ。見てくれよ」
そう言って神崎が手渡したのは、低周波治療器の一種だった。
「どこがだ?見せてみろ」
「コントローラーが上手く作動しないんだ…」
「ふぅ〜ん…接続が悪いのかな?」
独り言を呟きながら、器具を点検する。
「上部と下部で別々に低周波を選べたんだけど、最近上手く作動しないんだ」
神崎の説明に、ああでも無いこうでも無いと言いながら作業を進めていた。
その間も神崎は、棚の器具を点検していった。
神崎が、ほぼ全ての器具を点検し終わった頃
「よっしゃ、これでいいだろ」
徳太郎も修理を終えたようで、大きな声でそう言った。
「ちょっと試してみな」
神崎に器具を手渡しながら言う。
低周波治療器は、何枚かのパッドと二本の筒状の部分で出来ていて、パッド部は、肩や腰、その他体の自由な部分に張り付けて使う。
二本の筒状の部分は、膣内と直腸内に直接差し込んで、中から低周波を出し、刺激を与える仕組みになっていた。
神崎は、自分の手のひらや肩にパッドをあて、スイッチを入れる。
手元のコントローラーで強弱をつけながら調子をみていた。
「パッドは問題無いね」
「こっちは…」
筒状の部分を持ち、当惑気味に言った。
「試しようが無いよ…」
悲しいかな神崎にも徳太郎にも膣が無い。
直腸なら調べられるのだが…。
「誰かテストさせてくれる人が居ればいいんだけど…」
まさか患者で試してみるわけにもいかず、すっかり困ってしまった。
以前なら、試作品その他の試験は神崎の母親、つまり徳太郎の妻が担当していた。
しかし、その母親は3年前に他界してしまい、それ以来徳太郎も思い切った新発明を出来無いでいたのだ。
神崎自身も独身で、テストさせてくれるような恋人も居ない。
仕事熱心が仇になってか、恋人を作る暇も無いのが実状だった。
「やれやれ…」
落胆する神崎と徳太郎の横で、マックが小さくホッと息を吐き出したような気がしたのは、気のせいだったのだろうか?
…牡でよかった…