第6話『寮監指導』-2
「ご指摘ありがとうございます。 心してかかりますわ」
「ま、何にしろ貴女たちの代は普段が優し過ぎるから、こういう時に上手くやっとかないと舐められちゃうのよ。 厳しすぎるくらいで丁度いいと思います。 下級生がこのプログラム後に生意気な態度をとったりすれば、上がバカにされちゃってる証拠なのよね。 そういうのは寮にとって――つまり、寮監の私にとってもだけど、一番避けたいところだからぁ、とにかくビシッと締めてやって頂戴。 特訓週間は貴女たちの趣味じゃなくて、あくまで寮のためっていうことをお忘れなくねぇ」
「……その節はお手数をおかけすることになろうかと思います。 史性寮の伝統に恥じない生徒間指導を継続するべく全力で努力しますので、至らない点へのご指導ご鞭撻、よろしくお願いいたします」
寮監が読み終えたマニュアルを手渡され、【A4番】は深々と首を垂れた。 これで【A4番】の寮長としての仕事は終わったわけだが、史性寮の伝統というか、9号教官の嗜好というべきか、寮監室を訪れたAグループ生には、寮監に自分の牝性(M性)を躾けてもらう習慣がある。 『学園』の最上級生が取り組むカリキュラムには『M(マゾ牝)奴隷』が加わるのだが、せっかく学んだ『M奴隷』の嗜みを発揮する場は滅多にない。 そこで、寮監を自分の所有者、御主人様に見立て、M奴隷として束の間傅(かしず)く機会が設けられている。 となれば、寮監室を訪問した時点で、牝奴隷としての調教を受けないという選択肢はあり得ない。
「……僭越ながら申し上げます。 甚だ未熟なオマンコではありますが、M奴隷として精進しておりますわ。 教官様にM奴隷のくっさいマンコをさらすオマンコ無礼を、どうかお許しいただけませんでしょうか」
【A4番】からすれば、疲れている身体に鞭をうって、更なる調教を乞う形になる。 本音は関係なく、調教してもらう以上、全力で躾け、指導、叱咤を自ら望む姿勢が大切だ。 膝をつき、額を床に擦りつけての、平身低頭の土下座お辞儀。 寮監は【A4番】の後頭部を見て薄く微笑んだ。
「そろそろ寝ようかと思っていましたけど〜、せっかくだから相手をしてあげましょう。 近頃はBがお利口さんだし、Cは研修でいなくなるし、退屈していたところです。 久しぶりに上級生らしい、洗練されたM奴隷を躾けるのも、それはそれで悪くないかもしれませんし。 せっかくだから着換えてからにしましょうか〜」
鷹揚に隣の棚を指図する。 拷問用の器具が並んだ棚には、縄やボンテージスーツ、ラバースーツ、革拘束具など、マゾヒスト用の衣装も揃っている。
「どれでもお好きな恰好でどうぞ。 わざわざ自分から躾を乞うくらいですから、さぞ恥ずかしい恰好をしてくれるんでしょうねぇ。 愉しみだわぁ」
「……ありがとうございますわ。 わたくし、無様で淫乱なマゾヒストです。 どうかはしたなくだらしない下の躾を、厳しくお願いいたします」
「御託は結構。 そうとなれば私も用意してきますから、私が戻るまでにキチンと用意を済ませておいてね。 どんな調教をして欲しいのか、衣装だけじゃなく道具類も用意を忘れないように……って、今更釈迦に説法かしら。 貴女は立派なド変態のM奴隷でしたものねぇ」
そういうと寮監はソファから腰をあげた。 革ムチを握った姿は、さっきまでのぼんやりした様子とは雰囲気が違う。 薄っすら微笑む表情は、例えるなら、捉えた獲物を甚振る禽獣のような微かに頬を攣らせる笑み。
「ちなみに、どうせなら不細工でおバカな『M奴隷』を、おもいっきりぶちのめしたい気分だったりするんだけど、その辺はちゃんと伝わってる?」
真正面から教官に微笑みを浴びせられた【A4番】は、土下座のまま顔をあげた。 ニッコリ、笑顔で、
「了解致しました。 精一杯務めさせていただきますわ」
教官をみあげる。 ただ、教官の笑顔と異なり、【A4番】の目は笑っていない。 一言でいって、覚悟を決めた真剣な、真摯ともいうべき眼差しを床から教官に向けたのだった。