〈不治の病〜治療用献体・笹木希〉-13
『健二って男と婚約したんだって?それが分かってたらこんなコトしなかったのに……』
「ッ…!!!」
この酷過ぎる嘲りの言葉に、希はギョロリと目を剥いた。
(う、嘘だッ!分かってて私を…ッ!私をッ!)
生まれながらの美貌を持つ希の人生は、いわれなき謗りの連続でもあった。
異性を意識し始める思春期には同性からの妬みをかい、それは看護学校に入ってからも同じだった。
言い寄ってくる異性も美貌だけに価値を見出だすだらしない奴が殆どで、本心から希を想ってくれる人とはなかなか巡り会えなかった。
二年前、希は健二と出会った。
トラックの運転手をしている健二は腰のヘルニアを患い、その入院した病院で希と出会ったのだ。
ヘルニアは重度になるまで進行しており、手術前の検査は数回に及んだ。
造影剤の注入に歩行が困難になった健二に付き添ううちに、希は健二の真面目さに気付いた。
何故ここまでになるまで病院に来なかったのか?
それは自分の仕事に対する責任感の強さからであり、プライドの強さからであった。
一見すると優男。
だが、その中身は筋の通った〈漢〉だったと、希の方から惹かれていった。
トラック運転手と看護師という、自分の時間の少ない職種同士の恋愛は、二年間という時を積み重ねてついに実ったばかり……。
(元にッ…身体を元に戻してぇ!ゆ、許さない…こんなの許さないぃッ!)
健二と二人で育んできた愛は、何物にも代えがたい宝物だ。
これまで歩んできた人生の結晶が、女性としての幸せが、まさかこんな形で壊されるとは夢にも思わなかった。
「ぶ…むおッ!ぅお"〜〜〜ッ!!」
ゴムボールのギャグを咬まされた口は、唇を捲らせて前歯を剥いて呻き声を撒き散らした。
フランス人形のような顔立ちは今や般若の面になり、取り返しのつかない事態にまで追い詰めた畜人を、怒髪天を衝いて睨み付けた。
『乳首とオマンコにピアス着けて、チンポみたいなクリトリスをした女じゃあ“嫁の貰い手”も無いだろうなあ?まあ、『ザマアねえや』ってトコかあ?』
「ぐごッ!?ぶおッ!んおッ!」
誰もが思い描く幸せな未来……それをメチャクチャにされてしまった希の激情は、ここに集う畜人達でも理解出来ていた。