〈不治の病〜治療用献体・笹木希〉-11
『へへへッ…ビビって声も出ねえか?怯えた顔も綺麗だねえ、希ちゃん?』
『助けを呼べないならナースコールを押せよ?ほら、君の手元にあるだろうが』
「ひう…ッ?だ…んぐッ…だ、誰か……ッ!」
『助けて欲しいんだろ?だったら早く叫びなさい。このギャグが口に入っちゃう前にねえ?』
真っ黒なゴムのボールギャグが目の前でブラリと揺れても、希は顔を振りながら口をパクパクとさせるのみ。
とんでもない事態に巻き込まれた。
その事実を頭では理解していても、肝心な身体がそれについていけてなかったのだ。
(助けて…誰か助けて…ッ)
黒光りするゴムボールがゴポッ…と口の中に突っ込まれる……固まったままの舌が喉奥に押し込まれ、とたんに呼吸は苦しくなった……この緊急事態の進行に希の恐怖心は爆発し、その絶体絶命な危機に今更ながらに我が身を救うべく、筋肉の緊張を打ち破って唯一の手段に走った……。
「むおぉぉおぉおッ!」
遅きに失したとは正にこの事。
ボールギャグで塞がれた口が放つ叫び声など呻き声でしかなく、完全にドアを閉められた空間から抜け出ていくだけの音量は望めない。
「おッ!むおッ!?ぷおッ?」
『だから早く叫べばよかったのに……もしかして、顔に似合わず“おっとりさん”なのかな?』
大きな瞳にキラリと輝きが生まれ、それは滴となってつたい落ちた。
ベッドボードに繋がれた両手に、腕に施されている点滴。
そしてこの場所が病室だという事実は、何もかも仕組まれた上での事だという証拠でもある。
『見ての通り俺達は入院患者だ。なんの病気か分かるか?《心の病》なんだよ』
『綺麗な女を見ると滅茶苦茶にしてやりたくなるって困った病気さ。今まで何人も監禁したしレイプもしてきたけど、な〜んか直ぐに拉致った女に飽きちゃってねえ?』
『ナースの仕事って、病気に困ってる人の身体を治す事だろ?希ちゃんの身体を使ってさあ、俺達の病気を治してくれよ?』
『私達の要望を全て受け入れてくれますよね?だって君は天使じゃないか。リアル白衣の天使……そうでしょう、笹木希さん?』
あの日の院長の提案は、始めから〈約束〉などではなかった。
ただ自分をこの病院に連れてくる為だけの、禍々しい策略を成功させる為の偽りだったのだ……。
(こ…こんな汚い…ッ…卑怯な……ッ)
騙された……嵌められた……その悔しさは眉間の皺を作り上げ、卑劣な手段を用いて監禁と強姦をしようとしてくる患者達を蹴飛ばしてやろうと両脚は振り回される……しかし、素早く脚は取り押さえられ、手首と同様に麻縄はその白い肌に絡み付き始めた……。