光の風 〈聖地篇・序章〉-8
会議室に入ることを察知した女官は、急ぎ足で前に出て扉を開ける。
「ありがとう。人払いを頼む。」
そう言ってカルサとサルスは中に入っていった。いつもの上座に行き、ゆっくり腰をおろした。
サルスは傍に寄り、座る事無くカルサの言葉を待つ。そしてカルサは深く座りすぎた体勢を直し、サルスを見た。
「しばらくの間、城を留守にする。その間の総括を頼みたい。」
「留守?どちらに?」
「御剣としての仕事がある。頼めるか?」
国王としての威圧と、雷神としての威光があった。よほど重要な事なのだろうか。それでも内容は簡潔にまとめられてしまった。
「わかりました…。」
サルスは了承し、それ以降は詮索をしなかった。
国という重い責任がのしかかってくる。
「では、表向きは他国への訪問業務というこで。」
ああ、と同意しカルサは立ち上がった。窓から外を眺める。
よくよく考えてみれば、国外にでていくのは久しぶりの事かもしれない。サルスはそれを思い出し、カルサを目で追った。
カルサにとって、目に映るもの全てが自分の守るべきものだった。明日から自分の手では守れない。
「留守を頼む、サルス。」
その声は心からの想いだった。どうか何事もなく無事に。サルスを信用して国を出る決意の表れでもあった。
そんなカルサの言葉にサルスも応える。
「ああ、任せてくれ。」
あえてその言葉を選んだ。先代の王からの政権を二人で受け継ぎ、二人で国を支えてきた。今までも二人でやってきた。
まだ子供だったときから二人で支え合ってきた仲だ、二人にとってこの国は愛しさなしでは語れない。
「オレたちが政権を取ってから、もうどれくらい経つんだろうな。」
窓の外を眺めたままカルサは呟くように語りかけた。サルスはカルサの横に並び同じ様に外を眺めた。
自分達が必死で守ってきた世界。
「あの頃はがむしゃらだったのにな。今では当たり前のようになってしまった。国王陛下、なんてな。」
「先代の両陛下の死と、第二継承者であるオレの父親の死。いろんな不幸が重なってまだ子供だったオレたちに継承権がまわってきた。」
カルサは横目でサルスを見た。彼の目に映るのは、きっと幼き日々の思い出なのだろう。遠い目をしている。
カルサの両親である、先代は事故死だった。他国訪問中、突如、その国の王・王妃と共に行方不明になった。
発見されたのは崖の下。たくさんの護衛兵士と共に崖崩れにあい馬車ごと落ちてしまった。