光の風 〈聖地篇・序章〉-11
「皇子、本当に今行かれて大丈夫ですか?」
「千羅、そう思うか?」
千羅と瑛琳は心配そうな表情で目を合わし、千羅は言葉を続ける。千羅の言葉は二人の気持ちだった。
「火の力を持つ者の居場所が気になります。まさか結界士達の故郷とは…。」
カルサも目を細めた。複雑な思いが身体中を駆け巡る。答えなんて最初から分かっていても、悩まずにはいられない。
「もう太古の因縁が動きだしているのは間違いない。動きを見なければ。」
窓の向こうの満天の星空。カルサは左手をかざし、まるで月を撫でるように手を動かした。
あふれ出てくる真剣な想い。いつもあるのは、この気持ちだけだった。
「この国だけは譲らない。なにがあっても守ってみせる。」
この国、シードゥルサはカルサの全て。友情も愛情も、誇りもプライドも居場所も全てがこの国にある。
絶対に巻き込まない。自分の呪われた人生を恨むのではなく、それに負けない強さを手に入れる事を過去にカルサは選んだ。
戦う覚悟なんて今更必要はない。
「瑛琳、千羅。」
「はい。」
カルサの呼びかけに二人は同時に応えた。カルサは振り返り二人と向き合う。二人はいつもの様に、片膝をついてしゃがんでいた。
歩み寄り、二人と視線を合わせて言う。
「頼む。オレに力を貸してくれ。」
突然の面と向かっての申し出に、二人は一瞬固まってしまった。そして思わず吹き出してしまう。
「今更!」
「当たり前じゃないの!」
つられてカルサも笑ってしまう。大丈夫、それを再認識した。
目指すのは御剣の総本山。複雑な気持ちを胸に秘めカルサは前に踏み出そうとしていた。
カルサはリュナに何も言えずにいる。フェスラの事も、オフカルスの事も、これから起こる事も。
次の日、カルサ達は界の扉の間に来ていた。見渡すかぎり扉があり、それはきれいに等間隔で並んでいた。
「すごい…扉がいっぱいある…。」
上を見ても、下を見ても、横を見ても、前を見ても、後ろを見ても、扉があった。まるで自分達が扉の中心にいるような錯覚さえ起こる。