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黒豹に囚われた少女
【ファンタジー 官能小説】

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リュネットは忘れない-4


『も、申し訳、ございません……。私、迷い込んでしまって……どうか許してください。お願いです……勝手に入って、本当に悪かったと思っています……』

 精一杯に謝罪を繰り返していると、毛並みが白くなった豹人の老婆が進み出てきた。

『まぁ、落ち着きな。侵入者といっても、何の害もなさそうな子どもじゃないか』

『ベラ婆さん! 子どもだろうと侵入者には違いないだろうが! しかも、聖堂まで穢した無礼者だぞ!』

『そうだけどねぇ。この子はきちんと無礼を謝ったし、傷だらけで武器も持っていないようだ。弱った無抵抗の相手を殺すのは恥ずかしい真似だって言うのも、豹人の常識だよ』

 怒鳴る青年に、ベラと呼ばれた老婆は肩を竦めて見せ、そして今度はリュネットに話かけた。

『人間のお嬢ちゃん、あんたはどこから来たんだい? 親とははぐれたのかね?』

 穏やかな声音に恐怖が幾分か和らぎ、リュネットはここまで来た経緯を、出来る限り簡潔に答えた。

『――なるほど、それは難儀だったね』

 同情の籠る様子でベラが言い、仲間へ振り返った。

『なかなか礼儀正しく賢い子だ。あたしはこの子が気にいったよ。だから殺す代わりに、道が解らないよう目隠しをして、遠い街の孤児院にでも運んでやりたいと思う』

 彼女の提案に、控えめながら同意の声があがり、リュネットは希望に目を輝かせた。
 家族にいた魔族が優しかったように、豹人にも寛大な者がいたのかと感激したのだが……すぐにその希望は叩き潰された。

『ふざけるな! 掟は掟だ! 殺せ!!』

 ベラに同意した声の何倍も多い怒声が、広い部屋いっぱいに反響するほど張り上げられたからだ。許してやれという声は、たちまちかき消され、荒々しい空気が辺りに満ちる。
 二人の豹人に両肩を乱暴に掴んで立たされ、これでもうお終いだと覚悟した。
 その時だ。

『そいつの処遇について、俺から一つ提案をさせてくれ』

 部屋の入り口から、低い男の声がした。
 一人の豹人が、手に何かを握って立っている。金色に黒い模様の毛並みをした豹人の中で、彼だけは漆黒の毛並みだった。

『なんだよ、エドガルド。お前も、逃がしてやれなんて言うんじゃないだろうな?』

 リュネットの肩を掴んでいる豹人の一人が唸ると、エドガルドと呼ばれた黒豹人は答える代わりに、自分の持っていた品をリュネットの足元へ投げ寄越した。
 小さな硬い音をたてて転がったそれは、黒い細身の輪で、片方の端が外れて開いている。輪の表面はツルリと平坦だが、内側に細かな文字らしきものが刻まれているのが見えた。

『これは……服従の首輪じゃないか。なんだってお前、こんなものを……』

 肩を抑えている豹人の呻きに、リュネットは瞠目した。
 『服従の首輪』とは、人狼など特に力の強い魔族種を隷属させるために、溶かした発光鉱石から人間が作りあげた、恐ろしい品だ。
 首輪の一つ一つに、それぞれ対となる腕輪が存在し、対の腕輪を持つ主人に絶対服従を強いる事からその名がついたという。

 腕輪は外して他への譲渡が可能だが、首輪は一度つけると死ぬまで外れない。
 そして、首輪をはめた者は、腕輪の持ち主へ害意を持って触れれば、全身に動くことも出来ないほどの耐え難い苦痛がもたらされるのだ。

 苦痛はどんなに離れた場所に居ても、腕輪の持ち主が念じるだけで与えられ、逃げる事も不可能となる。
 だから、この首輪がとても高価で入手困難でも、欲しがる者が絶えないそうだ。



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