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デザートは甘いリンゴで
【寝とり/寝取られ 官能小説】

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3.初めての夜-1

 美穂が増岡と初めてその身を重ね合ったのは、交際を始めて五か月が経った春の日だった。それは美穂が彼を名字でなく『英明さん』と呼び始めてすぐの頃だった。
 結婚式場も備えたグランドホテルの一室。ダブルの客室は最上階に近い12階にあった。ホテル内のレストランで食事をとった後、美穂は日頃あまり見せたことのない不安げで硬い表情の英明に連れられ、その部屋に入った。

 「なんか、緊張するね」
 先に口を開いたのは英明だった。
 「そ、そうですね」
 上着も脱がず、ネクタイも緩めず、英明はベッドの端に腰掛けた。
 「ここに……」
 立ったままの美穂を見上げて、英明は言った。美穂はその言葉に従い、彼の隣に腰を下ろした。
 英明は右手をそっと美穂の右肩に置いた。
 体温が感じられる程に身体を近づけたまま、美穂は見上げるようにして英明の顔を見た。英明は美穂の頬を両手で包み込み、ゆっくりとキスをした。少し唇が震えていた。二人の歯が小さくカチリ、とぶつかった。
 「あの……」両手を自分の膝に置き直して英明が言った。「じ、実は、僕、女性経験が浅くて……」
 明らかに緊張していることがその声のトーンから解る。
 「こんな歳になって恥ずかしいね……」
 美穂はその雰囲気を和ませようと努めて明るい声で言った。
 「気にしないでください。貴男のペースで」
 英明は申し訳なさそうに美穂の顔を見た。
 美穂は柔らかな微笑みを返した。
 「お任せします……」

 英明はようやく上着を脱ぎ、ネクタイをほどくとワイシャツのボタンを外した。そして再び美穂の唇に自分のそれを重ねた。一回目の時よりも熱い息が美穂の口の中に吹き込まれた。

 二人は着ていたものを全て脱ぎ去り、ベッドの上に横になっていた。英明はしきりに美穂の身体を撫でたり、首筋に唇を這わせたりした。確かにその行為はぎこちなく、さっき彼が言ったことは本当だったのだと美穂は納得した。
 仰向けにされ、覆い被さってきた英明の身体を、美穂は薄目を開けて見た。その男性はすでに全身に汗をまとい息を荒くしていたが、その中心にあるものは十分に硬くはなっていないようだった。
 それでも英明は枕元に置いていたプラスチックの包みを手に取り、長い時間を掛けてそれを自分のものに装着した。
 燃えるような、という形容にはほど遠い美穂の身体の状態だった。普段、夜に自分のベッドに横になっている時と、ほとんど変わらない冷静さに、美穂は自分のことながら呆れてしまっていた。
 英明が中に入ってきた。何とかそれが大きさと硬さを備えていたことを、美穂はその感触で知った。
 「美穂」
 英明が初めて自分を呼び捨てにしてくれた。それが美穂には訳もなく嬉しくて、少し涙ぐんで両脚を思い切って大きく広げ、腕を突っ張ったままの英明の背中に手を回した。
 英明が腰を大きく前後に動かし始めると、美穂の身体もしだいに熱を帯びてきた。そして額に汗しながらはあはあと息を荒げ身体を揺する英明に合わせて、美穂もその腰を大きく動かし始めた。

 英明はなかなか上り詰めなかった。いつしか全身にびっしょりと汗をかき、顎からその雫がぽたぽたと美穂の胸に落ちて流れた。
 しばらくして動きを止めた英明は、大きく肩で息をしながら下になった美穂をばつが悪そうに見つめて上ずった声で言った。
 「ご、ごめん、もうちょっとなんだけど……」
 「いいの、気にしないで」美穂の声もかすれていた。

 長い時間が掛かり、息が切れそうになって何度も動きを止めながら英明はその腰を機械的に動かし続けた。いつしか美穂の中に入っていたものの摩擦が少なくなっていた。そして唐突に英明は顎を上げ、ひどく苦しげな表情をして喉元でぐうっと呻くと、びくびくと身体を脈動させ始めた。
 美穂も全身にびっくりするほど大量の汗をかいていた。

 全てが終わった後、英明は小さく萎えた自身のものを美穂から抜いて、ばたんとベッドに仰向けになった。
 「大丈夫? 英明さん……」
 はあはあと収まりきれない息を整えようと焦りながら、英明は今までで一番申し訳なさそうな顔を美穂に向けた。
 「ごめん……」
 美穂は身体を横に向けて、英明の胸にそっと手を置いた。
 「どうして謝るの? 良かったです、とっても」
 そう言いながらも美穂の身体の中にはまだ、完全に燃えきれず十分に熱を発しきれていない部分が残り、むずむずとした小さな疼きがその奥深くにわだかまっているのも事実だった。


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