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デザートは甘いリンゴで
【寝とり/寝取られ 官能小説】

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2.交際-4

 マユミがテーブルを離れると、美穂はグラスと一緒に置かれたナプキンで手指を拭き始めた。
 「イブの日は本当に申し訳ない」
 「いえ」美穂は慌ててかぶりを振った。「貴男の方こそ、いろいろと大変だったでしょう?」
 「突然のことだったからね……」
 増岡は小さなため息をついてうつむいた。
 「お寂しいでしょう? あの……しばらくは無理してあたしを誘ってくださらなくても……」
 増岡は顔を上げて力なく笑った。
 「高森さんと会って、寂しさを忘れたいんだよ」そして照れたようにぎこちない笑みを浮かべた。「一緒に居て癒やされる人がいて、本当に良かったと思う」
 その言葉を聞いた美穂は恥ずかしげに頬を染めた。

 二人の前にコーヒーカップが置かれると、増岡が促した。
 「身体、冷えてるんじゃない? おあがりよ」
 「はい、ありがとうございます」美穂はその言葉に素直に従ってカップを両手で包み込むように持ち上げ、コーヒーをすすった。
 増岡もカップを口に運び、一口飲んでソーサーに戻した後、静かに話し始めた。
 「姉の人生はあまり幸せとは言えないものだった」
 美穂は顔を上げた。
 「彼女は二十歳の時に結婚した夫とは離婚してるんだ」
 「そうなんですね……」
 「その夫はアルコール依存症でね、時折暴力もふるってた。いわゆるDVってやつ」
 美穂は返す言葉を見つけあぐねていた。
 「そんな彼も、結婚してすぐの頃は普通の……何て言うかどっちかって言うと気弱な感じの男だった。姉は気が強くて突っ走りやすい人だったから、DVの話を聞いた時はちょっと信じがたい感じだった」
 「お子さんはいらっしゃったの?」
 「できちゃった婚だったから、結婚した時は臨月だった。姉が離婚したのはその息子が10歳の時だったかな。その夫も依存症であることを自覚していて、このままでは妻子が不幸になるっていうんで協議離婚という選択をした。姉は一度は引き留めはしたけど、息子のことを考えるとそれ以上は強く言えなかったらしい。僕ら家族もその方がいいだろうっていう結論だったよ」

 「亡くなられたお姉さんには持病が?」
 「いや」増岡は首を振った。「血圧は確かに高めだったけどね」
 増岡は肩をすくめた。「人間いつ、どうなるかわからないってことだよ」そしてカップを持ち上げた。
 「その息子さんは?」
 「ああ、大学に通ってる。二十歳だから今度成人式だな。やつも相当ショックを受けていたんだろうけどね、通夜の時も葬儀の最中も一度も泣かなかった。姉に似て気丈な男なんだよ。」
 「辛いでしょうね……」
 「でもあいつが暗い顔をしているのを見たことはないんだ。泣いてるところも見たことがない」増岡は呆れたように笑った。「妙にテンション高くて、いつも明るく振る舞ってる。僕はちょっと羨ましいって思ってる。人付き合いもいいし仕事も真面目にやってるし」

 増岡は腕時計に目をやった。
 「そろそろ出ようか。予約してた映画が30分後」
 「そうですね」美穂は増岡に微笑みを返した後、ホールを見回した。
 店主ケネスがそれに気づいてすぐにやって来た。
 「もう帰るんか? 美穂さん。もっとゆっくりしていったらええのに」
 瞳が蒼くブロンドの髪の店主ケネスは大阪弁をしゃべる。父親アルバートがカナダ出身、母親のシヅ子が大阪人だからだ。
 「映画がもうすぐ始まるの」美穂が言った。
 「ええなー、デート」そして彼は増岡に目を向けた。「ええ子ゲットしましたね、先生」
 「そうですね。僕にはもったいないかも」そう言いながら増岡はケネスが持ってきた勘定用の革のトレイに千円札を載せた。「何しろ10歳も離れてるし」
 「文豪夏目漱石も妻鏡子とは10歳差やったそうでっせ」
 増岡は驚いたように言った。
 「へえ、そうだったんだ。よくご存じですね」
 「たまたま知ってただけですわ。すぐにおつり持ってきますさかいな」
 そう言ってケネスはテーブルを離れた。

 それから時はいつもと同じ足取りで進んでいった。
 美穂は姉を失った増岡を元気づけようと、デートの時は努めて明るい服を選び、いつもより余計に陽気に振る舞うように心がけた。増岡もその美穂の気持ちを知ってか、一緒に食事をする時も、街を歩く時も一時期のような暗い顔をしなくなっていった。良い具合に世の中も春に向かって次第にその明るさを増していた。


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