第2話-5
「いつまで寝てんだ。そろそろ帰れ。ガキがうろうろしている時間じゃないぞ」
猪熊の言葉でやっと身を起こす。
生臭いザーメン特有の異臭も鼻が麻痺してよくわからなくなっていたが、ティッシュで拭い始めると急に嗅覚が戻ってきたのを不快感とともに認識した。
足腰が震えて、うまく立てない。
それでも気力を尽くして身支度を整え、ふらふらと扉に手をかける。
「……なぁ。後どんくらいで返してくれるつもりなんだよ?」
力の無い表情で問う。
「あー。今日もお前ばかり楽しんでたからな。先にイかずに俺を満足させられたら合格にしてやろう」
「…………」
陵辱が終わる可能性が全く無いことを確認し。
ドアを開けて外にでる。
晩秋の夜風が静かに吹く暗い校庭を、教師に初めて犯されたときと同じようにとぼとぼ歩いていく。
一陣の風の冷たさに、思わず身体を抱くように腕を組んで肩をすくめる。
隙を見て衣服や鞄を探してもメモリースティックは見つからなかった。
沙耶香は夜空を見上げる。
自らを抱く両手に力がこもり、にらみつけるような強い視線を虚空に送る。
わずかに潤んだ瞳から涙はこぼれなかった。