投稿小説が全て無料で読める書けるPiPi's World

電脳少年の憂鬱
【ショタ 官能小説】

電脳少年の憂鬱の最初へ 電脳少年の憂鬱 0 電脳少年の憂鬱 2 電脳少年の憂鬱の最後へ

The depression of kira-1

「………………………」

宅配便のトラックは荷物を配達し終えるとまるでつむじ風のように走り去った。

思わず下腹が冷え込むような不安と緊張にキラは怯えたまま。
目に見えない蜘蛛の巣のような罪悪感と、誰かに見つからないかという焦燥感が同時にこみ上げて、裸足の足が触れている床から冷気が忍び寄る。

女性週刊誌サイト「Pink Lips」。
アンケートには28歳女性という虚偽の登録をして応募した結果、幸運にも手に入れたその賞品は化粧品のパッケージに偽装されていた。
キラはそのパッケージを抱え込むようにして階段を駆け上がり、自室のドアに鍵をかけて立ちすくみ、昂まる胸の鼓動に大きく肩を上下させる。
部屋の片面を埋め尽くす鏡には、汗で張り付いた髪を払い、壁に背を付けて佇む少年の姿が映っていた。

身長140センチそこそこの小柄な身体。純潔のシャム猫に似ていると言ったのは誰だったか。

こんな風に生まれて来たかった訳じゃない。たまたま美形の両親を持ったという運命と偶然は、致命的な病気の疑惑にまで発展した。

「同一性障害の疑い」

文字にすると深刻そうだが、あくまで「疑い」であって、身体的な事は精密検査の結果はキラを男性であると特定している。DNA検査でも結果は「XY」だ。

キラは来年中学生になる。しかし鏡に映るのはまだどう見ても小学生の四年生か、そのくらい。
背が低いのは悪くない。そんなに馬鹿のように大きくなりたくもない。ただやみくもに図体の大きい同級生を見ると、キラは「ウドの大木」という言葉を思い起こす。愚鈍で、愚図で、乱暴なだけの迷惑な生き物。
でも、同級生が急速に大人の体型に育って行く中、キラの体型は取り残されたように幼い。身体の線は柔らかく、まるで少女のようだ。

その白磁のように透き通る白い肌は道行く人が思わず振り返る程。

去年の夏には市民プールで監視員に厳重な注意を受けた。
「なぜ胸を隠さないのか」
キラの抗いにも拘わらず監視員はキラを女子と断定し、一緒に行ったクラスメイトは面白がってキラが女子だという証言までした。

(あの時は結局事務所でパンツを脱ぐことになっちゃった)

屈辱と恥辱、当惑と幻滅。見た目についての忌まわしい記憶はいつもキラの心を乱す。

それに、身体つきだけじゃない。気まぐれな母親の勝手でセットされた髪の毛はマッシュショートベースのボディパーマがゆるふわにかけられ、言い訳のつかない程スタイリッシュ。
「髪の色を抜くまでもない天然色」と美容師が褒めちぎったその髪の毛色はアッシュブリーチをかけたかのよう。

それより決定的なのはそのマスク。

三日月のように弧を描いたアーチ眉の下には、どこか儚げな不思議な虹彩を持つ瞳。
その輝く宝石の瞳は濃く長い睫毛が飾り、くっきりとした二重の瞼は彫り込まれたかのように深く、すっきりとした高い鼻筋の下には天然のルージュに彩られた小さな唇が薔薇のように開いている。

否定しようもない美貌。客観的には間違いなく「美少女」。
それも「アイドル」と呼ばれる芸能人が形無しになるほどの美形。
神の悪戯はキラが纏う雰囲気までを演出する。キラは誰が見ても圧倒的に可愛らしい。大輪の薔薇ではなく、野に咲くスミレのような可憐さがその魅力だ。
あどけなく、キュートで、驕り高ぶったところの一片もないその風貌は、見も知らぬご婦人方が思わず道ばたで抱きしめてしまうほど。

街を歩けば男子中学生や高校生が蜜に群がる蜂のように集まり、碧をナンパする。
男だという事が知ると、冷たい視線を注ぐ。そのたびに碧の心はささくれる。
女子に声をかけられた事もあるが、あろうことかそれは「百合」と呼ばれる同性愛者だった事を知った時、キラは本気で「死に方」を選ぼうとした。
レスビアンまでもが魅了される、浮き世離れした美貌と愛らしさに恵まれた少年は孤独だった。

ホント、洒落にならない。

碧は手元に抱えたパッケージを見つめる。
恐怖。戦慄。そして、狂おしい誘惑。
あのサイトにさえ出会わなければ。



問題になるほどではないにせよ、キラはヒキコモリだ。
キラの世代であれば、たいていはモバイル端末が主流。スマホかタブレットといった選択肢があたりまえでありスタンダード。
しかしインターネット黎明期からの伝説的なハッカーであり、大手SIerのシニア・エンジニアである父親は自宅に恐るべきシステムを作り上げ、専用のクリーンルームに業務用の冷房が常に稼働する城塞として家を設計した。
ハッカーの鉄則。それは人から盗むことは出来るが人からは絶対に盗まれないという強迫観念。
だから、キラの部屋には古風な名で呼べば「ワークステーション」というものが鎮座している。
対称型マルチタスクの6CPUは軽くペタフロップを超え、128bitのOSは大容量のSSDで駆動し、クリーンルームのCISCOのフラッシュメモリ・サーバとの接続はむろん光回線。

なにしろGoogleやYahooといったメジャーな検索エンジンすら搭載されていない。そのかわりに動いているのは「億度」(OKUTO)という冗談のような人工生命型の検索エンジンだ。
この「億度」、メジャーな検索エンジンにある自粛とか規制がまったくなく、特定の認証が必要な闇のサイトでも軽く乗り越えてログインする。

そんな特殊な環境下に置かれている事にキラ本人は気が付いていない。
なにしろ、キラが物心ついて初めて見た光景は、ディスプレイの中を自己複製しながら泳ぐ「AQUA ZONE」という古代の電子水槽だったのだから。
その昔、プログラムで遊ぶキラを見て、父親の友人は「電脳少年」とキラのことを呼んだ。
キラにとってbitは日常で、夢はQbit。人間は日常に気付くことが出来ない。


電脳少年の憂鬱の最初へ 電脳少年の憂鬱 0 電脳少年の憂鬱 2 電脳少年の憂鬱の最後へ

名前変換フォーム

変換前の名前変換後の名前