8月5日-2
息を整える私を彼が申し訳なさそうに見つめている。
「詩織があんまり可愛かったから、つい暴走しちゃった……。
俺、こういう人間でさ。多分、詩織が帰るまでに何回もこういうことをしちゃうと思うんだ。
痛いこと、汚いこと、詩織が本気で嫌がることは絶対にしない。
でも、こういうことがどうしても嫌だったら、うちに泊まらないでいい。
ホテルを取ってあげるから、そこを拠点にしてゆっくり東京観光をしたらいい。無理強いはしたくないんだ。」
さっきとは打って変わって少ししょんぼりしてしまった彼を見ていると、なんだか虐めたくなってしまう。
「真一郎さんって本当に困った人ですよね。エッチな人だって知っていたけど、ここまでだとは思いませんでした。」
その言葉を拒絶と受け取ったのだろう、彼は、「嫌な思いさせてごめんなさい。」と謝罪の言葉を口にした。
「私がもし助けを呼んでいたら人生終わってたんですよ?」
「うん……。」
「反省してください。ちゃんと反省して、早く真一郎さんの家へ連れていってください。」
途端に彼の顔に笑顔が戻った。
「ありがとう。本当にありがとう。これから3日間、絶対詩織ちゃんのことを大事にするからね!」
「大事にしてくれなくていいから、いっぱい虐めてください。
それから、呼ぶ時は『詩織ちゃん』じゃなくて『詩織』です。ほら、バス着きましたよ!」
どうしてこの人には、こんなに素直に本音を言えてしまうのだろう。
「五月が丘」と書かれた大きな駅のすぐ側でバスを降りると、
右手でキャリーカートを、左手で彼の手を引いて私は歩き出した。
「ちょ、ちょっと待ってよ。詩織ちゃん、道知らないでしょ!」
振り向いた私はにっこりと微笑んで彼を引き寄せると、私の前へ押し出す。
「だったらちゃんとエスコートしてください。」
私の訪れを歓迎してくれているかのように8月の風が吹き抜け、
どこまでも青い空を一筋の雲を曳きながら飛行機が飛んでいく。
帰りの飛行機に乗る私には、どんな思い出が出来ているのだろう。