碧の祭典-1
スターマインが夜空に巨大な花を咲かせ、火薬の匂いが風に舞う。
夏の夜風はなま温かく、浴衣の裾は感じやすい少年の肌をくすぐった。
今日の碧の装いは、桜の花をあしらった小粋な浴衣。
足下は素足に藁で編んだ古風な草履とかなり和風。
化粧はいつもより派手で、ローズピンクではなく薔薇のような深紅のルージュが引かれている。
「宿題」専用のダイアのピアスはいつも通り。ただ、今日は髪にピンクのメッシュが一筋。浴衣の桃色と相まって、ちょっと大人っぽくエキセントリック。
浴衣はわざと着崩して華奢な鎖骨を露わにし、淡いベージュ・ピンクの宝石のような乳首が見え隠れ。「だらしのない美女」といったところ。
夏のお祭りは午後の7時を迎えて賑わいも最高潮に達した。
参道を埋め尽くす夜店は、昔ながらの金魚すくい、射的、ヨーヨー釣り。子供達ははしゃぎ、酔漢は騒ぎ、カップルは愛を囁き、犬は駆け回る。風に揺れる提灯がほのかな灯りをまだらに石畳を照らしている。
そんな喧噪の中でも、碧の装いはひときわ目だった。
もちろん、そのずば抜けた美貌と子鹿を思わせる美しい肢体のせいもあるが、その立ち振る舞いの全てが艶っぽく、淫ら。
その流し目は誘うようにして挑発的。その指の舞いはあまりにもセクシー。歩くたびに揺れる双丘のラインは桜を散らした浴衣を踊らせる。
その独特の色香は、やはり独特の男たちを立ち止まらせる。碧の肉体がこの上ない美果であることを嗅ぎ出し、欲望に満ちた視線が碧に突き刺さる。
それこそが碧の望むもの。極上の「餌」として、お祭りという舞台に立つヒロインだ。
この夏、碧が受けた調教はただの男色だけではない。その幼い躯には目に見えない烙印が大量に隠されている。
普通の少年なら精神に異常をきたしていたかも知れない責め。男たち三人による、朝も昼も夜も、絶え間なく続けられた輪姦は、碧という少年にとって培養液となり、値となって肉になった。
もともと並外れた聡明な少年であった碧は、淫らな性技をスポンジのように吸収し、肌を、舌を、喉を、そして可憐な肛門を「性器」として使いこなす。
夏休みというわずかな時間に碧が体得した淫靡な体技は数知れず。
内臓までを淫らに改造された少年の美貌に宿る独特の色香は「好き者」にはもちろん、ノンケや女性までも魅了してしまう程に妖艶だ。
丘陵の麓に位置する神社は森に囲まれて、夜店の賑わいから離れると静寂に包まれた闇。木々は穏やかに声をひそめ、虫の音すら眠っていた。
樹液の立ちこめる闇の中に、碧は足を踏み入れる。
木立の隙間から華やかな花火の花が咲き、そのたびに碧の華奢な影が、名も知れない雑草の上に明滅するアニメーションを映し出した。
しっとりとした土の感触を楽しみながら、碧は背後から忍び寄る足音に耳を澄ませる。
ひとつ。そしてもうひとつ。
足音が増えるごとに碧の鼓動が高まって行く。不安と、期待と、スリル。
毒々しい真っ赤なルージュが下弦の月のように持ち上げられる。誰をも歓迎する娼婦の微笑み。
森の中のひときわ大きな楡の木に背をもたせかけ、碧は闇に目を凝らした。
碧の言葉のない挑発に誘われたのは誰?
派手なアロハシャツと腰履きのジーンズからは、汗と、男のオスの香りが臭い立つ。
ほんの少し前まではただ不快なだけだった性臭。それが今は碧の性感を掻き立てる。
アロハシャツの男は一見して日本人には見えなかった。アラブ人か、イタリア人か、そんなところ。毛深くて小太りで、脂ぎった色黒の顔には無精ヒゲ。
いかにも享楽的で、精力絶倫。碧の好みのどストライク。
もうひとりの汚らしいTシャツを着た男は口髭を蓄えた細身で、神経質な印象。これもまた国籍不明。何故か医者が持つような黒い診察鞄を提げていた。
「いいじゃん、いいじゃん。ボク、『ショタ』ってやつだよね。それも最っ高に可愛いじゃん!女装なんてしちゃって、片耳ピアス。誘ってる?誘ってるよね?『男を漁っている淫乱ビッチ』なボクなんだよねっ!」
アロハシャツのアラブ人は機関銃のようにしゃべり出す。そのハイテンションは楽天的で、どこか心を許す魅力があった。
碧は答えの代わりに浴衣の襟を緩め、透き通るような肌を闇の中に晒す。
わずかに肋骨の浮いた胸に咲く、淡い乳首が艶めかしい色を添える。
うっとりした半眼の瞳。
幼く、可愛らしい舌がその深紅のルージュを濡らし、挑発のため息を漏らす。
そこには、あどけない男の子の姿はなく、性の道具に相応しい淫らな娼婦が立っていた。