A:4-3
「なーに、礼には及ばんさ」
「えっ……?」
美衣奈の頬をAの舌が下から上へと、流した涙の筋を丁寧に沿いながら舐めあげた。そして、舌が頬を離れると同時に、美衣奈は再び絶叫しなくてはならなかった。
「いぎゃあああああああああッ! どけてッ、どけてよッ!」
今度はAの片足が美衣奈の右太腿に乗せられていた。そのまま力が加えられそびえている針に太腿が押し付けられる。反射的に筋肉が収縮して、筋が浮き出るほどに太腿が固まる。それでも上から押さえつけられれば当然針は肉体に突き刺さる。
「いだいいッ! いぎゃいいっ! ぐぎいいいいッ!」
うつむき、歯を食いしばりながらも歯の隙間からは押し殺された悲鳴が溢れてしまう。そんな美衣奈の髪を鷲掴みにして無理やりあげさせると、Aは密着させんばかりに顔を近づけた。光のない瞳が美衣奈の充血した瞳を吸い込む。歪んだ口から抑揚のない落ち着いた声が彼女に向けて発せられた。
「俺はな、よく女を犬に仕立て上げる。女に痛みと恐怖をありったけ与えて調教するんだ。そしたらみんな苦痛から逃れるために必死に媚び、へつらうようになる。そうなったら腹を見せて服従させ、四つん這いにして靴を舐めさせる、そしてまんことアナルを自ら開かせて卑語を言わせる。発情期の淫乱なメス犬のようにな。最高の気分だよ……だが、お前はそうではない」
「ひっ……」
「お前はブタだ。淫乱なメス犬にすらなれない、下劣なメスブタなんだよクソガキ。どうしてかわかるかー?」
「あぅ……ぁぁ」
「わかんのかわからないのか答えろよ」
踏みつけている足に体重がかけられて美衣奈の太腿に新たな針が突き刺さった。鮮血が音もなく滴り落ちる。
「あぐぅぅっ! わっわかりませんっ、ごめんなさいわかりませんッ!」
「お前がヤク中だからだよ。違法薬物に手を染めて、売春して挙句には売り手として薬物を振りまく。こんな知性のない腐ったガキはブタがお似合いだろ」
怯えきった目がAに向けられている。その焦点は吸い込まれているように彼の瞳から動かない。激痛にのたうち回っていた身体も動きを止め、流れていた血さえも今は彼の迫力にその流れを止めている。
「言え、宣言しろ、自分はブタだと。下品で淫乱でヤク中でどうしようもない低能なメスブタだとな、そして媚びろ、へつらえ。そうしたらその椅子から降ろして治療もしてやる。さあ、言え!」
のしかかっていた足が離れ、圧迫されていた太腿が解放される。それと同時に美衣奈は必死にAに媚びを、彼に言われた通りに浅ましくへつらう様に下品な言葉を口にした。
「は、はいッ! 美衣奈はメスブタですっ! ばかで頭悪くて、の、能無しでっ、どうしようもないメスブタです!」
「そうそう、自分の立場がわかってきたじゃないか。椅子は許してやろうか」
美衣奈を拘束するベルトが外されて、彼女はこの恐ろしい審問椅子から解放された。一つ一つの傷は浅いものの、椅子に触れていた部位は痛々しく流血を伴い、体中が痛みに震えている。それでも美衣奈はAの指示によって軋む身体で土下座しなくてはならなかった。
顔を床にぴったりとくっつけて土下座する美衣奈の頭にAの片足が乗せられた。床にめり込むほど力を加えられてグリグリと踏みにじられる。
「続けろ、媚びろ」
「下品なメスブタをゆ、許してくれてっ、ありがとうございますっ! 美衣奈は一生A様のメスブタっ、か、家畜になりますからっ、ど、どうかよろしくお願いしますッ!」
「よーしよし、お前を家畜として飼ってやる。だから、俺のことは今からご主人様と呼べ、いいな?」
「はいっ、ご主人様! 浅ましくて下品なメスブタをよろしくお願いします!」
美衣奈は堕ちた。浅ましく、下品で淫乱なメスブタへと。彼女には彼女なりに大切にしていたものもあったかもしれない。だが今ではそのすべてがどうでもよかった。媚びを売ってへつらわなくては苦痛から、恐怖から、逃れられなかった。仕方ない仕方ないと、何度も心に言い聞かせながら、美衣奈はそのすべてを捨ててブタになり下がったのだった……。
赤十字のマークの入った救急箱を抱えて無表情のBが面倒くさそうにゆっくり歩いてくる。その姿を視界に納めると、メスブタは電池が切れたように急速に意識を喪失した。