傷つけ合いな学校祭-4
例の喫茶、繁盛しているだろうか、若葉は大丈夫そうだけど彼がねぇー、最後の最後まで嫌がってたから…。
私はそんな心配をしつつもいつまで経っても出口に辿り着けない迷路にあたるとずっと迷い歩いている。
「ったくいつになったら出れるのよー。」
「大した作りだなぁー。」
何を呑気な、けどまぁ彼からしたら目に見える物全てが新鮮で楽しい物なのだろうね。
「前からずぅーと思ってたけどいつも大変よね、青森から北海道に行くのって、交通費はお兄さんが?」
「まぁな、俺が古巣に足を運ぶって言ったらためらう事なくお金出してくれて。」
「まぁまぁー、まだ若いし幾ら稼ぎの良い所で勤めてるっても生活費とか切り詰めていかなくちゃいけないのに。」
「そこのところは優華さんが、上手い事やりくりしているみたいで。」
「あの人ねぇー、聞く限りホント素敵よねぇー、才色兼備、一家を支える素晴らしい方、
ちょっと憧れ。」
「だな!どうやら前からちょくちょく貯めたらしくて。」
「それってアンタをアンタの暮らしがラクになるお金だけはしっかり確保している…ってことよねー。」
「あぁ、兄さんも優華さんも二人でそう話したと思う。」
彼と会う度そんな話題で盛り上がる、で「やっぱあたるだわ」と旧友と再会しているんだと実感する。
「にしても出口まだかよー。」
目にするのは段ボールで出来た壁ばかり。
「いい加減諦めて合図送れば?」
ふむ、確かに出れそうになかったら上の二階窓から係員として配置されている彼らがお客がギブアップのサインを出したら上からメガホンで出口まで導いてくれる事になっているけれど。
問題はその係員があのバカ=蓮、で、その客が私=悪戯対象者と言うのが心配。
「確かに。」
「合図を送っても答えてくれなさそう。」
「あぁ、きっと操り人形のように振り回すだろうに、ならぶち壊すかこの壁。」
「でもなぁー他の客の事だってあるし。」
「じゃーどうすんだよ、戻るか?入口に。」
「何言ってんのよ、そこに戻れたら苦労しないでしょうに。」
「そっか、出口探しているも同然か。」
上をむすっとした顔で見上げるもあんにゃろはとぼけるような素振りで2階の窓で左右に体を動かしている。
「…客、そうだ客だ!」
「え?」
何だこのやり取り、まるで私ら密室にでも閉じ込められたみたいだろ。
「他の客がギブアップをすれば!」
「そっか、それに後はついていけば…。」
成る程、それは確かに名案だ…。けど口で言うのは簡単だ、そう都合よく客も来ず、来たとしてもギブアップもせず迷い続けたり、というかギブアップしたとしても近くにその人達が居ないとアカンやろ!
…いい案だとは思うがそれを実行する条件が都合よく揃う訳もなく、結局重い足取りで途方もなく出口を探す事に。
「ったく蓮の奴、たまーにこれだもんなぁー。」
「…えぇ。」
普段は明るくて面白い良い奴だけど、たまにはめを外し過ぎて真面目に迷惑な時も。
故にさっきまえは楽しい学校祭だとノリノリな気分だったけどだんだん真面目に腹が立ってきた。
「でも。」
「あ?」
「こうしていると少しまずいかもな。」
「そうねー、そろそろ若葉たちの様子も見に行きたいし。」
「まぁそれもそうだが、こうしてお前とこんなところにずっといると。」
「ん?」
意味深な事を言う彼に私は唇をΛにし、じっと見つめる。
「吊り橋、効果…的な。」
何を言い出すかと思えば、…肩の力が一気に抜ける。
「…はぁ、馬鹿な事言わないで、アンタには先輩が居るでしょ、早乙女先輩が。」
「まっ、まぁーそうだが。」
「?」
何だ、そういえば一緒じゃないのか?私達ですら彼の再来にこんなに喜んでいるなら彼女は普通私達より先に真っ先に嬉しくて駆け寄る筈じゃ…。
「ねぇ、早乙女先輩はどうしたの?」
「えっ!?」
あからさまにドキッとし出す彼。
「…恋人なんでしょ?だったら。」
「いやぁーちょっと。」
「……。」
…何だろう、この違和感。全身から血の気が引く思いだ。
先輩も祭り前日まで張り切っていたし急に体調を崩した風にも見えないし、何か急用が出来たとも知らせは受けていない……、てゆーかさっきも会って普通に友達と祭りを見て回ってたし。
え、え?
何…この感覚。
「と、所でさぁー学校はどう?向こうでも上手くやってる!?」
折角のお祭り、気にはなるもののあまり深く考えすぎて台無しにするのも嫌なので無理やりにでも話題を替え。
「それは……。」
「?…お兄さん達夫妻とも仲良くしてる?」
強引に笑顔を作り不安を取り除こうとする私、けどそんな私に対して彼は裏切るように更に耳を疑うような事を口にする。
俺、またこっちで暮らす事になるから…。
え?