傷つけ合いな学校祭-3
楽しい学校祭を楽しんでいる伊吹さん達の一方で僕と若葉ちゃんは恒例のメイド執事喫茶で盛り上がる。
「きゃーーあの子超可愛い💛」
「オトコの娘だオトコの娘♪」
案の定ご来店してくるお客さんからの容赦なき黄色い歓声。
僕は犬耳の被り物にメイド服(とどめと言わんばかりに一条君がお尻に犬の尻尾まで付けるという提案、いや明白な悪意まで入れてきて)でお祭り前夜は眠れず、意を決して着ると女子達がキャーキャー言いだして、(何故か男子も少数)正直もうお婿にいけないかもしれないが唯一の救いが若葉ちゃんが可愛いって言ってくれた事、他の女子だと迷惑以外の何ものでもないが、好きな女の子にそう褒められると良い気分になる、例え僕からしてただのふざけた衣装以外の何物でもないにしても。
「お、お待たせしました…。」
しかも接客担当だし、裏でケーキや珈琲を出す方がせめて良かったのに、一条君が表に出した方が絶対売れる、と。
最早あの人が悪魔に見えてきて仕方がない。
さっきからへっぴり腰でなよなよとご注文の品をお届けする僕。
こんな格好だし、別にやる気がない訳ではないけど、こんなんだとお客さんだって気分悪くして、客足が減るかも…、売り上げをあげたい皆の気持ちを踏みにじるようで申し訳ないけどそんな根も葉もない期待をする。
「あの子さっきからもじもじし過ぎじゃない?」
「ほんとねー、模擬とはいえ外からの客も居るのに…。」
そう不満をこぼすお客、やったか…。
でも、そんな僕の期待は一瞬で打ち砕かれる。
「…けどそこがまた可愛いよねぇー。」
「ねー、きっと恥ずかしくて溜まらないんだろうねぇー、そう考えるともぅ💛」
駄目だ、返ってお客を喜ばせてしまっている。
「ううっ、あっいらっしゃいませーようこそメイド執事喫茶へ💛」
あぁ何か死にたくなってきた…。お客はそんな僕の想いとは裏腹にどんどん押し寄せてくるし…。
「あの子めっちゃ可愛いんだけど。」
「あぁ💛天使だ。」
同じく接客に勤しんでいる若葉ちゃん、彼女は執事服で僕とは正反対にキビキビと仕事をこなしている。
彼女の執事服姿は絶望的に似合わない、どちらかと言えば彼女もメイド服の方がとっても似合うのだが(何で僕の方がこんなにも似合うんだぁ!)それでも男子大生っぽい人達が嫌らしい目で彼女を見つめる。
やめろー、僕の恋人だぞー!
そう心が叫びたがっているもそんな真似出来る筈もなく。
着たくもないメイド服を着て、来る人来る人にじろじろ見られ、自慢の恋人も外から初めてくるような輩に嫌らしい目で見られて。
…まぁ、本気で苦しい訳でもないけど、けど…けどぉー。
「ほら今仕事中だろ?しゃきっとする!」
「え…。」
聞き覚えのある声に振り向くと。
「母さん…。」
「よっ!仕事思ったよりも早く終わったから来てみた、てか何その恰好(笑)」
(笑)…じゃないし、それはこっちが聞きたいくらいだよー。
八重樫さんとの一件が過ぎてからけっこう経つ。ショックで寂しいのは今も変わらない、この席に母さんだけでなく横に彼も居たら…そう思うと悔しくて溜まらない。
けれどもそうも言ってられない、僕ら親子は何だかんだ言って強いんだ。息子の様子を見に来た母も見た感じ元気そうだ。
「うーん、珈琲美味しい♪」
「良かった、あっご注文ですか、今伺いまーす!」
やっぱり大事な人が元気でいるのは嬉しいものだ。