〈弱虫の決意〉-6
『……血は繋がってないっていっても妹なのにな……自殺未遂まで追い込むなんて酷い真似しやがって……』
噛み締められた奥歯をギッと鳴らして孝明は俯いた。
『金欲しさに身体を売る娘がいるって話だったけど……俺まで騙したってコトか……』
「あの二人の〈お金〉の為に私は利用されてるんです…ッ…私…お金なんて欲しくない……!」
言葉も態度も寄り添うものばかりで、花恋の抱いていた恐怖は何時しか消えていった。
それどころか恐怖はある種の“頼もしさ”へと変わりはじめており、次第に花恋は饒舌になっていっていた。
「このままじゃ何の為に生きてるのか……お願いです藤盛さん、私の撮影を辞めてください!」
孝明なら、きっと願い事を聞き入れてくれるはず……。
縋るような思いで花恋は声を張り上げ、そして深々と頭を下げた。
『ん〜……いや、それは無理だよ。だってもう機材もスタッフも用意してるんだから』
「ッ…!!!」
キラリと光って見えた希望の煌めきは、やはり幻覚だった……もうこれ以上下がらない頭は項垂れようがなく、花恋は冷水を浴びせられたように黙るしかなかった……。
『そんなに力を落とさないでよ。その代わりって訳じゃないけど、もう二度とアイツらに君を好きにはさせないよ?』
「ッ!?」
直ぐには言葉の意味が分からなかったが、花恋は顔を上げて孝明を見た。
その表情は泣いているようでもあり、何処か笑っているようでもある。
『君は俺と《契約》すればいい。つまりさ、契約したんだからこの会社の専属モデルになるってワケ。君は“俺の女”なんだから、アイツらなんかにゃ手出しさせないよ?』
突然に言われた“契約”の言葉に、花恋は再び恐怖を甦らせた。
新たな苦悩の出現に、項垂れはじめた困り顔には涙が滲む。
『ごめんごめん、言い方が悪かったね。契約って言っても口約束さ。契約書も存在しないんだから、何の効力も無いやつだよ?ただ裕太と裕樹に二人で嘘を吐いて騙してやるんだよ。『専属モデルだから勝手はさせない』ってね?』
これが〈毒を以て毒を制す〉なのだろうか。
嘘には嘘で、騙しには騙しで対抗する提案に、花恋の恐怖は再び薄れていった。
それでも撮影への抵抗感が消えた訳ではなかったし、なかなか花恋は返事を返せない。
それが例え裕太と裕樹の毒牙からの解放に繋がるとしてもだ。