〈弱虫の決意〉-4
『はじめまして、藤盛孝明って言うんだ。どうぞよろしく』
「………」
孝明は立ち上がって右手を差し出したが、怖がっている花恋は握手にも応えられなかった。
右手と顔を交互に見ながら、オドオドしているだけに終始する有り様である。
『他人に利き腕を預ける習慣は無い……か。もしかして君のマスコットネームはゴ〇ゴ13かな?』
そのマンガのキャラクター名は知っていたが、そんな設定までは知らない花恋は、引き攣った笑顔を作るのが精一杯な様子。
一方の孝明は照れ隠しのように右手で頭を掻くと、キョロキョロと室内を見回した。
『あ…花恋ちゃんの椅子を用意してなかったね』
孝明は畳まれて壁に凭れていたパイプ椅子を広げると、机の前に置いて花恋に手招きをする。
促されるがままに花恋が椅子に座ると、孝明も自分の椅子に座り直し、二人は改めて対面した。
『……なんでこんなチンケな会社で“モデル”をしようって思ったの?未成年じゃ大手と契約出来ないってのは分かるけどさ…?』
「ッ!!??」
モデルという言葉に、花恋は息を詰まらせた。
あの兄弟が連れてきたこの場所で、しかも会社だという建物の中で、単なる写真撮影のモデルではない事は直ぐに知れた。
『援交じゃ稼げないからって“AVデビュー”するなんて、君も随分と大胆だよね。ま、君みたいな可愛い娘なら、コッチも断る理由は無いけどさ』
やっぱりそうだった……。
性行為の強要だと分かった上で黙って付いてきた花恋だったが、たちまちに手足にはブルブルと震えが起き、それは唇にも伝播した。そして額や腋にはジットリと冷や汗が吹き出てくるのを感じていた。
『そうそう……君の花恋て名前なんだけど、うちの作品では“可憐”にするから。さすがに実名だとマズいだろう?』
撮影、そして作品……花恋の脳裏には、先週に見た悍ましいDVDのポスターが浮かんでいた。
これまでも兄弟にレイプの光景を撮られた事はあった。
だが今回の撮影は、始めから商品とする為のもの。
パッケージの花恋を見て性的な興奮を覚えた不特定多数に、はしたない姿の全てを観られてしまうという事になるのだ。
それどころか何時の日にか、英明の目に止まってしまう可能性も生まれてしまう事になるのだ……。