〈弱虫の決意〉-2
『お…お久しぶりです、孝明さん。あの……かなり可愛い娘を見つけまして……はい。は…はい、そうです……』
これまでになく緊張した声色で、裕太は通話する。
それは今週末の日曜日のスケジュールを決める会話であった。
まだ花恋の心に“落ち着き”が戻ってもいないのに、それでも裕太は勝手に話を進め、裕樹はそれを聞いているだけで止めもしない。
『そうですね……宜しくお願いします』
通話が終わると、時をおかずに階段を上がってくる音が聞こえてきた。
パソコンの画面を切り替えると、そこには帰宅してきた花恋が映っていた。
何処かぼーっとした表情が痛々しく、しかし、制服姿の花恋は兄弟の欲情を堪らなく刺激させる。
だが、今は手は出せない。
再び商品として差し出される運命を授けられた花恋を、ここで傷つける訳にはいかないのだ。
『裕樹、ヤリたいだろうけど我慢するんだぞ?』
『それは分かってるさ、兄ちゃん』
もう盗撮には意味は無くなった。
裕太はパソコンの画面を戻すと、恥辱を染み着かせた〈遺品〉となっていたかも知れなかった、異臭を放つ青い下着を出品した……。
――――――――――――
色々な出来事が有りすぎた日曜日から数日。
花恋の憂鬱は少しも癒えてはいなかった。
『俺は花恋のコトを待ってる』
その力強い言葉に勇気を貰い、自殺を思い止まったとは言うものの、それで悩みが消えた訳でもない。
相変わらず洗濯篭からは脱いだパンティが消えていたし、入れ替えるようにベッドには新しいパンティが置かれる毎日。
そして今度の日曜日に、一緒に出掛ける事を裕太達に告げられても、それに拒否の言葉を返せなかった。
(いつになったら英明さんと……私はいつまで…いつまでこんな……)
勇気を貰ったはずだったのに、花恋は全く変わってなかった。
いや、変わろうと思っても変われなかった。
駐輪場で、そして廊下で、英明は花恋の頭を撫でてくれたり、掌で頬を優しく包んでくれたりしていた。
彼氏のいじらしい励ましを持ってしても生来の気性は容易くは変わらず、未だに花恋は冷酷な兄弟の言いなりのままだ。
(変わらなきゃ…変わらなきゃダメなのに……)
人体に何らかのスイッチがあり、そこを押したり回したりしただけで思考や行動が変わるのなら苦労はしない。
必死の願いは虚しさだけを生み、そして無駄な時間を経過させるだけ……弱まらぬ苦悩に苛まされるだけの花恋は、結局は何も変わらないままに日曜日の朝を迎えてしまっていた……。