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『胸ポケットの想い出』
【悲恋 恋愛小説】

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『胸ポケットの想い出』-3

『本当にごめんなさい……さようなら……』


振り向きもしない背中越しの言葉。話せない理由ならもうそれでいいよ。だけどどうしてそんなに肩を震わせてるんだ?

それじゃまるで……

泣いてるみたいじゃないか……


それがお前との最期の会話だった。




「熱っ!!」

気付かないうちに煙草が根本まで燃え尽き、俺の指を焼いていた。苦笑しながら火口を灰皿に押し付けて、俺は空を見上げる。

わずかな陽射しはいつのまにか厚い雲が覆い隠し、空は今にも泣き出しそうだ。

ゆっくりと目を閉じて俺は考えてみた。もし、あの時にすべて知っていたとしても、俺に何が出来ただろう……と。




翌日、俺に言った通りにお前は俺の前からいなくなった。HRで担任が告げた『引越し』という言葉によって……

実はその後の事を俺はよく覚えていないんだ。ただ、気付いたらお前の家の前に俺はいた。まだ授業中だった筈なのにだぜ?


必死にドアを叩き、俺はお前の名前を呼んだ……

何度も、何度も、何度も……声が枯れる程に叫ぶ。

だけど俺がどんなに叫んでも返事は返って来なかった。

力尽きた様にその場に俺は崩れ落ち、ただ無意味に時間が流れていった。やがて街灯が灯る頃に自分を呼ぶ声に気付いた俺が顔を上げると、そこにはお前の父親が立っていた。


『娘の言った通りだったな。私は君は来ないと思っていたのだが……』


俺は何を言われているのかわからなかった。けれど、お前の父親の話は続く。リボンがかけられた小箱を渡され、苦渋に満ちた面持ちで重々しく口を開いた。

お前が先天的な心臓の疾患を持っていた事……

今年に入って急激に容体が悪化し始めた事……

一縷の望みを託し、渡米して手術を受けると言う事……

そして……

成功の確率が極めて少ないという事……



『君には申し訳ないと思っている。しかし、あれは娘の本心じゃないんだとわかってやってくれないか?どうか娘の気持ちを察して欲しい……』


静かに話すお前の父親の声は震えていた。だから俺はもう何も言えなかったんだ……


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