桜と桃子と…-1
【大地で開け!桜と桃子】
トントンッ!
突然背中を叩かれた桃子は、心臓が止まるくらいドキッとした。慌てて振り向くと、セーラー服に身を包んだ妹の桜が、にやにやしながら立っていた。
「お姉〜ちゃん、なにしてるのかなあ?」
クラブ活動で帰りの遅いはずの妹、その予想外の登場に、桃子の血の気が一気に下がり、顔面が蒼白になった。
「ち、違うの!」
桃子の口から咄嗟にその言葉が飛び出したが、耳にイヤホン、ベッドの上で観入っていたノートパソコンの画面にアダルトな動画が流れ、おまけに足を開いて下着の中に手を入れている状態を見られたのだから、なにを言っても無駄だった。
「へ〜、お姉ちゃんでもこんなの見て、そんなことをするんだぁ。その指先でどこ触ってるのかな〜」
桜は、わざとらしくパソコンの画面と桃子の股間を交互に見比べながら、自分と違って生真面目な桃子をからかった。
といっても、おとなしい姉を苛めているつもりはなかった。それどころか、中々打ち解けない姉の隙が垣間見れたので、妹として少し嬉しかったのだ。
しかし、内気な桃子にとって、いつも明るい妹の心境などわかるはずはなかった。桜の遠慮のない視線に慌てた桃子は、下着から素早く手を抜き、足をピタリと閉じて股間を隠した。
だからといって、いくら慌てて隠しても、今していたことがなかったことになるはずはない。桃子の蒼白だった顔が見る見る内に赤く染まり、目から涙が溢れてきた。
丁度タイミングよく、振り向いたときに外れたイヤホンから、『あん、あん、あん』と、女優の喘ぎ声が微かに聞こえてきた。
その恥ずかしさに堪えきれなくなった桃子は、真っ赤に染まった顔を伏せて「わあっ」と泣きだした。
「えっ?ちょっと!」
まさか、いきなり号泣するとは思わなかった。桃子がこんな風に泣くと、手がつけられないことは、経験上桜も理解していた。しばらくは内に籠り、下手をすると学校を休むことに発展しかねない姉のナイーブさを思って桜の方も慌てた。
「そ、そんなに泣かなくていいでしょ。ちょっとからかっただけじゃないの」
泣くなといわれても、妹の前でとんでもない失態を晒したのだ。パニックになった桃子の泣き声は、桜の声に反応してさらに激しさを増していった。
「もう、やめてよぉ〜、お姉ちゃんを苛めてるみたいじゃないのよぉ〜」
桃子と違って桜は明るい性格だ。ウジウジしたことが苦手で、この状況にウンザリし始めていた。
(スルーしとけばよかった…)
深く考えずに行動する桜は、こんな風に行動してから後悔することがしばしばだった。桜は帰宅後のことを思い返した。
玄関先で「ただいま〜」と声をかけたが、高校では帰宅部で家に居るはずの桃子の反応がなかった。
「変ね。お姉ちゃん居ないのかな?夕飯の支度手伝おうと思って帰ってきたのに」
玄関の鍵は開いたままだった。疑問に思いつつ、帰宅後の放尿を済ませた桜は、自分の部屋に戻る前に、桃子の部屋を覗いてこの状況に出くわしたのだ。
姉の桃子が逆の立場だったら、気づかれないように引き返すのだが、遠慮のない桜は考える間もなく反射的に声をかけていた。
(こんなことになるなんて…)
かといって、号泣する姉を放置して出ていくほど無責任でもなかった。桜は少しやり方を変えることにした。
「お姉ちゃんも、もう高2なんだからオナニーくらいするでしょ。中2のあたしだって去年から毎日してるよ」
桜はてらいもなくそれを打ち明けた。
それに桃子の身体がビクッと反応した。桃子にとって、性の話は秘めるべきものだった。特に家族の間ならばなおさらだ。妹のその驚きの告白が胸に届いたのか、桃子の泣き声が少し弱まった。
(おっ、ヒット!)
こんな感じで、桜はいつも前向きに受け止めることができた。さっきの反省を他所に、桃子の反応に気をよくして、さらに内気な姉の中に踏み込む行動をとった。