第29話『牝馬!あるある大事典』-4
『生活ウマ百科』
ウマという生態が社会生活に組み込まれる過程で、どうしてもヒトとウマが相互に干渉し、損害を被る場面が現れる。 ヒトとウマが互いに害を与えた場合、どちらにどのような調停が下るのか、或はどのような罰・賠償が生じるか? この番組では漫才で問題提起し、判例を紹介する形で疑問に答える。
『はいどうもー。 いやー、最近道端でつまづいてしもうてね』
「人生躓いてばかりやもんね、アンタさん」
『いやなこというなや。 人生は順風満帆やがな。 でな、こけた拍子にご近所さんの玄関に置いてあったツボに当たってな、壊してしもうてん』
「人間関係壊してばかりやもんね、アンタさん」
『いちいちうるさいな、そないなことないがな。 けどな、運がよかった。 ちょうど通りかかった裸馬がおったさかい、全部そいつのせいにしたら、ご近所さんが【ウマのすることやったらしゃーないわ】いうてな、あっさりツボを諦めてくれたんや』
「夢を諦めてばかりやもんね、アンタさん」
『どないやねん! まああれや、それで話は済んだんやけど、ちょっと気になることがありまして、それで相談に来たんですわ。 もしもウチが『ウマに責任をのっけた』ことがバレたら、ウチは罪に問われるんでっか? この点、ウマにのっかってるだけに、『あんじょう』よろしくお願いします』
ちなみに『ウマ』がヒトの所有物を毀損した場合、ウマは被害額に相当する財産を自ら毀損して謝罪することになっている。 といってもウマである間は一切の財産を所持していないため、唯一の資産といえる『自分の身体』を痛めつけ、損壊させることしか謝罪の道はない。 今回のケースであれば、壺を壊された被害者がウマに処罰感情を持った場合、ウマは『茨の中に身を投じる』『火で炙った石炭に五体投地する』『焼いた鉄板に額をおしつける』といった力技や、『割れた壺の破片を膣奥に詰め込んで胎内を変形させる』『壺の内容量分だけの液体を直腸浣腸し、被害者が良しとするまで排泄を我慢する』といった変形技で謝罪することになっただろう。
最初の依頼に対する判例は『有罪・偽証罪に問われる』というものだった。 ウマは人語を話すことを禁じられているが、騎兵はウマの動作から感情の大部分を忖度できるし、CCカメラが普及した市街にあっては大抵の事件は映像に収められている。 ゆえに高い確率で偽証はバレる。 偽証がバレた場合、『偽証罪』は『偽証の結果がもたらす恐れのある処罰を、偽証した者が2度に渉って甘受する』ことを要求する。 すなわち判例によれば、ウマが被ったであろう謝罪行為を2度、相談人は被害者に行わなくてはならない。 今回であれば、例えば『熱した鉄板に、額を2度おしあてる』ことになる。