僕の全てを知ってるオバチャン-1
僕が仕事から帰って来て、1階の集合ポストを開くと、
「ありゃま〜」
女性のヌードが露骨な派遣型風俗……デリヘルのチラシが、また入っていた。
(こんなの入れるなよ。捨てるのに困るやろ。)
チラシを見ている僕の後ろから声がした。
「またそんなヒワイなチラシ入れとるやろ。かなんなぁ〜」
2階のオバチャンだった。蛍光色の迷彩の上下を着て、すさまじいパーマの頭をしてる。
生まれた時から、僕の事を知ってる団地の古豪だ。もっとも、僕の家だって同じくらいの古豪だけど。
「ホンマにかなんわ。」僕は言った。「小さい子もこの団地にけっこうおるのに。」
オバチャンはうなずいた。
「もう、ビリビリに破いて捨てとき……それに、」オバチャンは僕に寄りかかるようにして言った。
「こんな女、買うた(こうた)らアカンで。」
僕は苦笑した。「そんなん、買(か)わへんよ。」
オバチャンは続けて言った。
「それに……このごろの女の子にも気をつけや。電車の中なんかで、ワザと身体くっつけて来て、チカン呼ばわりするらしいからな。」
「はい……」僕は戸惑いながら言った。
「アンタ、」オバチャンは僕の手を握らんばかりに言った。「そんな悪い女の子にチカンにされて、アンタが捕まったりしたら、アンタのお母ちゃんエライ事になるんやで。アンタがおるから助かっとるけど、アンタがおらへんようになったら、お母ちゃん命縮めてしまうで。」
「はい……」僕は凹みまくっていた。
「エエか。」オバチャンはとうとう僕の手を握った。
「街で裸みたいなカッコした女を見て、ムラムラしても手を出しなや。女を触りたくなったら、オバチャンの所へおいで。」
「はい……」しおらしく返事はしたけど、そのオバチャンの言葉には冗談を感じていた。
(いくら僕が女っ気ないから言うて、オバチャンに手を出すような事はせえへんわ。)