プロローグ-1
午後の日差しが、書店の奥の方まで差し込む。白い壁に照り返された、紅味《あかみ》を帯びた夕日が、店内にまったりとした、または、ほっこりとした雰囲気を醸し出している。
静かで、笑顔が溢れ、一見すると、平和な下町の午後、という雰囲気に満ちた書店の中なのだが、この書店で密やかに行われている事を知れば、その悪辣さ、卑猥さ、下劣さに、誰もが顔をしかめるだろう。
いや、表面上はしかめた顔の下で、誰もが恍惚とした想いを、沸々とした欲情の高まりを、その胸に、そして、その股間に、覚えるはずだ。
ここは、女を凌辱し、徹底的に弄び、骨の髄までしゃぶりつくし、更に、彼女達を欲情させ、淫らな快感に目覚めさせ、それに溺れさせ、究極的に淫乱な女へと人格改造する事を目的に開業され、運営されている書店なのだ。
この書店の店主−涌井《わくい》は、彼の立ち上げたこの本屋を、表向きは「涌井書店」と名付けられた本屋を、裏では、「痴漢の巣窟書店」と呼んでいた。
書店には、女を陥れる為の様々な罠が張り巡らされている。計算され尽くされた、女を淫乱地獄へと誘う、無数の仕掛けが施されているのだ。狙われた女は、決してそれを避ける事は出来ないであろう。涌井に標的にするとされた女は、もはや淫乱化地獄を避ける術は無く、確実に人格改造の餌食になるのだ。
それほどに、この書店に張り巡らされた罠は、巧妙かつ完璧なのだ。
今日もこの店に、その心を淫乱化させられて、そのカラダを隅々まで徹底的に賞味される為に、女達が来店する。もちろん彼女達は、そんな、自身に待ち受ける運命など知る由も無い。ただの、どこにでもある本屋だと思い、書籍を求めて、はたまた時間つぶしの立ち読みの為に、若しくは、知人友人との待ち合わせの為に、この書店を訪れたにすぎないのだ。
涌井の御眼鏡に適わない女は、ターゲットにはならない。幸か不幸か。この日も、何人もの女を見送って来た涌井だったが、遂にその食指が動いた。ニヤリという彼の、卑猥の極みに達した笑みと共に、書店に張り巡らされた罠が、音も無く動き始める。
今、彼がその目に捕えている女は、もう、確実に、淫乱化させられる。今の所、ごく普通の、健全な心と体をもった女なのだろうが、そして、そうでなければ涌井の食指は動かないのだが、その女は、書店の罠に嵌められ、その健やかな心と体を、奪われると言うべきか、穢されると言うべきか、いずれにせよ、究極的に淫乱な女になるのだ。させられるのだ。避けられないのだ。逃れられないのだ。