終焉-1
マンションの踊り場に分かり易く高級セダンが横付けされてわたしを待っているように運転手は深く頭を下げていた。「直人らしいわ」と皮肉るように悪態を尽きながら上品に深く頭を下げる運転手を無視するように革張りの後部座席に深く腰を降ろしていた。
「直人様からの預かり物でごさいます」
運転手は後ろを振り向くことなく真っ白い手袋に載せた封筒をわたしに向けて差し伸べていた。
「あら。何かしら」
精一杯の上品さで繕いながら、ろくでもない代物だろうと思いながらも自暴自棄に封を切って中を確かめてみた。
「拝啓 朝比奈 侑香様」
そう書き出された一枚の紙と一枚の写真が納められていた。
「ご安心下さい」
「大丈夫です。外には渡しません」
「敬具 青山 直人」
何も考えず「直人は青山って苗字なのね、佳奈と一緒だわ。本当かしらね」と何も言わない運転手に独り言のように車内で呟いていた。
封の中に納められていた恐らく凄く恥ずかしい姿のわたしの写真を嫌な気持ちで取り出したわたしは「嘘でしょ」と大きな声をだしてしまっていた。
その写真は佳奈の成人式に記念に残したと思われるスタジオで撮られた綺麗な着物を着た佳奈とその隣で中学生と思われる今とほぼ変わらない童顔の直人が並んで映されていた。