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二人の外道2
【鬼畜 官能小説】

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始まり A:1-1

 九月ももう半ばを過ぎて、さすがに夏の暑さも収まりかけてきたころ、特に夜となると半袖では肌寒い気温となっていた。そんなある日の夜、駅前広場の時計が七時を差して少し経った頃である。駅近くの繁華街を歩いていたスーツ姿のとある中年男性の背中に、声がかけられた。
「ねえおじさん、今ひまじゃない?」
 柔らかい声だった。男性は足を止め、首だけ後ろに振り向いた。視界には少女が収まっていた。
「なんですか?」
 怪訝そうな表情の男性の前には、どこかの高校の制服を着た少女。彼女は、身長は低めで幼児体型ながら、ブレザーの上からでもうっすらと膨らみが確認できた。セミロングの髪の先が、内側に向けて緩くカールを描いている。容姿の第一印象はそう悪くはなかった。
「ねえ、ひま?」
「え? ああ、まぁ、今から帰るところですが」
 改めて少女の方に向き直ると男性は怪訝そうに言った。厄介事じゃないだろうかと、疑惑の眼差しを彼の脳が光のない瞳を通して少女に向けていた。
「じゃあ、ひまなんじゃない」
「いや、うちに帰らないと……」
 勝手な決めつけに男性はあからさまに難色を示し、左手で頬を小さく掻いた。その薬指には金色の指輪がきらめいている。
「んもぅ、ノリ悪いなぁ。おじさん……わたしとヤらない?」
 直接的な物言いに、さすがに男性も揺らいだようだ。僅かではあったが、彼の口元が緩み、瞳に光が灯るのを少女は見逃さなかった。
「ねえ、この近くにいいホテルあるんだ。二万でお願いっ」
「私には家族が……」
「お願いおじさぁん。お金が、お金がいるの。サービスするからぁ、ね? ほら」
 もうひと押しと、少女はブレザーから覗くカッターシャツの第二ボタンを外して、ピンク色のブラジャーをちらつかせた。幾人かの経験を得て習得した“色っぽい声”も使ってみた。落とせる自信はあった。
「……わかった。家に電話するからちょっと待ってくれ」
 ほらやっぱり、チョロイなぁ。今度は少女の口元が緩む。目の前でスマホを取り出す男性の背をぼんやり見ながら、少女は手に入るお金の使い道に思いを巡らせていた。

 繁華街から一つ二つ外れた路地にあるホテル街の一角。周りと比べると新しめな、七階建てのホテルがそびえていた。少女は慣れているのか真っ先にそこを選んで、部屋もいつもここなんだ、とニコニコしながらこちらも慣れた手つきでタッチパネルを操作した。
 男性の方はというと、そんな少女をぼんやり見ながら、帰ったら怒られるなぁ、と深いため息をついていた。「二時間半で五千円ね」という少女の声も流しながら。男性は夫婦の営み以外では尻に敷かれる側であったのだ。
 ホテルの一室は何の変哲もない場所だった。ごく一般的なラブホテルの構成だ。真ん中に大きなふかふかのクイーンサイズのベッドと、その脇にソファーとテーブル。朝まで頑張る客のために冷蔵庫や電子レンジ、朝食のサービスも備えてあった。やはりオープンしてそれほど日が経っていないのか、どの設備にも清潔感が溢れていた。
「じゃあ、シャワー浴びてくるから」
 ブレザーをクローゼットに掛けた少女は、ソファーに腰を沈める男性に一声かけてから風呂場へと学生鞄を抱えて消えていった。
 今日日のホテルは制服を着ていても入れるのか。男性はホテルの責任者に呆れたが、自分も他人を責めはできなかったなと小さく笑った。
「よし」
 小さく意気込んで腰を上げる。まずはブレザーを。胸ポケットをまさぐると、それは簡単に見つかった。生徒手帳だ。
 高上 美衣奈(たかがみ みいな) 学年は三年生であるが、三月生まれでまだ十七歳。
「十七か、俺は完全に犯罪者だな」
 独語したが、彼はすでに何件も凶悪犯罪を起こしていた。まだ警察にも世間にも露見してはいないし、させる気もないが。
 学校名はどこかで聞いたことあるなと検索してみると、不名誉な方で名の知れ渡っている私立の低偏差値高校だった。住所から考えて、先ほどのターミナル駅から私鉄に乗り換え、三駅ぐらいが最寄り駅のようだ。大方、学校帰りにブラブラしていたついでに声を掛けたのだろう。
 男性は素早くメモ帳に少女の名前と自宅の住所を記すと、そっと胸ポケットに手帳を戻した。そのとき、何か薄いプラスチックみたいなものが指先に触れた。何気なく取り出してみると、それは錠剤のPTP包装フィルムだった。服用したのか、いくつかのカプセルはすでに空になっている。
「うちの商品……じゃないな。他社のものか……いや、それでもない?」
 その包装は不思議なもので、裏にも表にも薬の名前どころか何の文字も印刷されていなかった。そんなものを一介の少女が持ち歩いている……。曲りなりにもその業界にいる男性には、すぐに察しがついた。そういった類のものは大方違法な薬物である。
「へえ……乱れとるなあ風紀が」
 錠剤を一つ押し出すと、男性はそっと胸ポケットにそれを戻した。取り出した錠剤は服用などもちろんせずに、鞄から取り出したケースに入れる。明日、成分を詳しく調べなくてはならない。ことと場合によっては、彼の親友の力も借りねばならないだろう。


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