始まり A:1-2
「おじさん、やさしくしてね」
風呂場からあがってきた少女は備え付けのバスローブに身を包み、ゆっくりとした足取りで近づいてきた。心なしか、誘ってくる声が震えているような気がした。
「ねぇ、おじさん。名前、教えてくれる?」
ベッドに腰を掛けた男性の太腿の上に腰を下ろした少女は、後ろから抱きかかえる男性の腕に、自身の腕を絡ませてうっとりとした声で言った。
「まずは自分から名乗ってよ」
「んんー、おじさんの名前から聞きたいのに―」
「ぐずってないで、ほら」
優しい声を出すと少女はすぐに折れた。
「エリって言うの。もちろんエリって呼んでくれる?」
偽名か、それもそうだな。売春どころか薬物までやってる奴が、おいそれと正直に本名なんか名乗るわけないよな。髪から漂う甘い香りをかぎながら、男性の光のない瞳が“エリ”の後頭部をを見下ろす。
「エリちゃん。漢字はわからないけど、かわいい名前だと思うよ」
適当にお世辞を言うと、エリは嬉しそうにエヘヘと照れた。チョロイなぁ。エリの後ろで男性の口元が歪む。
「俺の名前か……。うーん、Aでどうだろ? アルファベットのA」
「なにそれ?」
「偽名にしては短いか」
「ええー、偽名じゃやだぁ。私ちゃんと名前言ったもん」
めんどくせーなバカガキめ。自分も偽名のくせして、何を言っていやがる。お前の本名も住所もこっちはすでに知ってるんだよ。
「いつもこうなんだ。エロサイトの登録名もA。頼む、お願い」
彼の心と言葉はそれぞれ別々の遠い位置にいた。
「んもぅ、仕方ないなあ」
しぶしぶ引き下がるエリの身体を優しく抱きしめると、彼女は小さく笑って振り向き、男性の唇に自らの唇を重ね合わせた。
「ひいよぉ、おいさん、やなくってAさんで。初めてらし、やさしそうらから、ぎめーでもゆるひてあげゆ。れも、そのかわりいっはいきもひよくひれね?」
舌を絡ませながらでろれつの回らぬまま、エリは猫なで声でAを誘う。
「ああ、大人の優しさを見せてあげるよ」
「エヘヘ、やったぁ」
一旦離した唇を二人は再び重ね合わせた。今度はさきほどよりも情熱的な熱いキスになった。
「ああっ、きもちいいっ! ヤバい、Aさんヤバいっ」
エリはベッドに仰向きで横たわり、むっちりとした脚を大きく開いて喘いでいた。股の間にはAがいて、エリの蜜壷に舌を這いずりまわしている。下から上へと舐めあげるたびに、透明で塩の利いた液体が柔い肉からあふれ出して舌に絡みつく。さらに上の肉豆をすすりあげると今度はエリの上の口から嬌声があがる。
「Aさん、きもちいよぉ。もっとぉ、いっぱい舐めておねがいっ、ああっ、クリトリスやばいいい、ああっ、や、ダメっ、イキそうっ」
Aは舌の動きを速め、上下に加えて左右の動きも追加して、舌が抜けるほど伸ばしてエリの性器を舐め続けた。
「や、待って、イ、イクっ! あああっ、待ってってばぁっ、うああ、やぁ、あああああああああああっ!」
まっすぐにピンと張った脚がビクビクと痙攣する。よく見知った絶頂を知らせる動作だった。
それを見届けるとAはズボンを脱ぎ捨て、さらにネクタイ、Yシャツ、肌着と順に服を脱いでいき、全裸になって再びエリの股の間に腰を下ろした。
「口でやってくれる?」
両腕を引いて彼女を起こそうとしたが、エリは遠慮がちに口を開いた。
「私、口でするの嫌い……」
一瞬表情が固まる。ヤク中女がなに好き嫌いしてやがんだ、無理やり突っ込んでやろうか? Aはそんな心を完全に内に隠して表情を和らげた。
「わかった。脚曲げて開いて」
すでに体勢を整えているAのソレは、エリにとっては凶器に思えた。彼女が遊んできたどの男性のモノよりも大きく、たくましかった。それは、彼女なりに愛を注いでいる男性のモノさえも凌駕していた。さすがに痛いかもしれない……でも、大丈夫。きっとクスリが天国へ連れていってくれる。
「うん。いっぱい気持ちよくして……」
彼女はM字開脚を披露してAを迎え入れた。
「ひあぅっ、あうううっきもひっ、ああっ」
部屋に嬌声が広がる。ひと突きごとに、通常ではありえないほどの愛液があふれ出る。
「俺も気持ちいよ、エリちゃん」
これは嘘ではなく本心だった。エリの温かな柔い肉はAの肉棒を包みこみ、締め付ける。それはコンドーム越しでも十分に通用するほどであった。
「あんっ、うあ、イク、イッちゃいそ、あ、ああんっ、ああああっ」
小さな絶頂を迎えたエリの股から、潮が噴き出た。密着していたAの身体は、彼女の体液を受け止めた。とても温かかった。
「ふひーっ、ああーきもちいー」
顔が完全に蕩けきっている。Aにはセックスの自信が少なからずあったが、つい先ほど知り合ったばかりでお互いの事を何も知らない相手に、これほどの快楽を与えることまではさすがにできない。こいつはキメてるな……。彼は確信していた。