36歳の婚活-1
セキュリティロックが解除された重厚な音が遠くの石畳みの玄関から聞こえていた。
全ての理解を諦めていたわたしは映像が流し続けるわたしを見つめていた。
部屋に戻って来たわたしは大きな胸を揺らしながら布団の染みを拭いタオルに包まれたバイブをベットの下に隠すようにお尻を突き出して収納ケースを取り出しその奥にある箱を引き出して箱の中を見下ろすように素っ裸でしゃがんていた。真正面を向いてしゃがむわたしの股間は黒い塊のように映しだされていた。映像は尺度をあげて迫るように股間を撮らえ更に尺度をあげて一本の毛を鮮明に前面に映しだしていた。
遠くの廊下から硬いソールの音を響かせながら近づいて来ていたが、わたしは何も考えることなく映像が映し流すわたしの姿を淡々と眺めていた。
リビングの扉が開く音が背中から聞こえていが、それでもわたしは振り返ることもできずに姿見に身体のラインを確かめるように起立したわたしの後姿を映す動画を眺めていた。映像は大きな肩幅と少し緩んだウエストに角度を変え大きなお尻で尺度をあげてから太腿の付根からふくらはぎにかけて尺度を戻しながら素っ裸の後姿を確かめるように流していた。
わたしに向かって近づけくソールの音が真後で止まりわたしが振り向くのを待っていることは分かっていた。
流れ続ける映像に全てを諦めたわたしは何も考えずに後ろを何も考えずに見上げていた。
「初めましてかしらね」
「沙也加と申します」
高級なシルバースーツを着こなしてレッドソールを履いたままの女性が艶やかな髪をおろして深々とわたしに頭を下げていた。
「34歳です」
「身長は173cmあります」
「体重は61キロを維持しています」
全てを諦めたわたしは頭に入ってこないその人の自己紹介を何も考えずに見上げていた。
「股下は92cmあります」
「Cの65ですウエストは68cmです」
「ヒップは84cmしかありません」
「24cmを履けるように脚の甲だけ整形しています」
「他は全て本物ですよ」
深々と頭を下げて自己紹介を終えた女性は微笑みながら大きな瞳でわたしを見下ろしていた。
「最後はジョークよ」
瞳が笑っているようにわたしを見下ろしながら語りかけていた。
「あなたは誰なの」
小さな顔の造りにあるその大きな瞳に向けて問いかけていた。
「やっと話してくれた」
涙で腫れたわたしの目線に併せるように屈んで、綺麗な指先がわたしの目元を解すように慰めてくれていた。
「わたし、何も分からないの」
素直にこぼした心の声だった。高級なシルバースーツの裾から輝くレッドソールの黒い光を見つめながら答えを乞うように呟いていた。
「そうねぇ」
「レズで無いことは間違いないわよ」
優しく微笑む大きな瞳は笑いながらわたしを見つめているようだった。
「まずは湯船に浸かったほうがいいわ、沸かしてくるから何も考えずに待ってるのよ」
洗練されたボディークリームの香りを残しながら靴裏のレッドソールを響かせて遠くの扉に消えてしまっていた。
「待ってよ、わたしを独りにしないでよ」
追いかけるように遠くの扉を開け長廊下に幾つもある扉を開けてようやく浴室を見つけ消えてしまった女性に縋るように声を掛けていた。
「どこにいるの。どこなの。」
ようやく見つけた浴室は大理石に囲まれた広い空間から都内の眺望を占有できるように施されていた。大きく見渡せる窓元に大きな檜の湯船が置かれ乳頭色のお湯が湧き出るように満たし始めていた。
「ここにいるわよ」
真っ白い石段が曳かれた清潔感ある脱衣所の奥の部屋からその声は聞こえているようだった。
「どこにいるの。どこなの。」
扉を開けて取り乱すように辺りを見渡していたわたしに向かって、真っ白のガウンに着替えた女性が「ここにいるわよ」と満面の笑顔で手を広げでおどけながら姿を現してくれていた。幻覚でなかった安心感に満たされたわたしはその大きなガウンに飛びつくように抱きついて涙を流すことしかできなかった。
「お湯はね源泉から曳いてるのよ」
綺麗な香りに包まれたわたしは、優しく諭す言葉に心を許し柔らかいガウンに顔を埋めるように涙を流し続けていた。
「はやく温泉に浸かったほうがよいわ」
「天気の良い夜なんてね素敵な星空なのよ」
「ほら、泣いてないで一緒に入るわよ」
柔らかいガウンに包まれたわたしは優しいその声に諭されるまま全てを脱いで渡されたガウンを羽織って湯船に向かって歩き始めていた。