第23話『嗅げれま10!』-4
3品目に男性陣が選んだものは『キビヤック』だった。 本来の食べ方であれば、海鳥をアザラシに詰めて発酵させ、海鳥の内臓が液状化したものを海鳥の肛門から啜って食す。 今回は女性の膣を容器にする関係で、液状化したものを膣口から抽入し、それを男性陣がストローで飲むという試みだ。 『クサすぎる』『胸がやける』『味はウマい』『どんだけ腐ってるんだ』『腐りすぎて癖になる臭い』等々、比較的好意あるコメントが並んだ。 一方女性はといえば、『番組に命令されている・直接膣が放映されているわけではない』とはいえ、自分の膣にストローが5本挿入され、そこに男性が群がっている状況。じゅるじゅると下品な音を膣からまき散らされるも、唇を噛んで耐えるしかない。
4品目として膣に詰め込まれた『ホンオフェ』。 ガンギエイの刺身や切り身を発酵させて作る。 粘膜を傷つけるレベルの濃厚なアンモニアを放つため、女性の膣に詰める際は薄片シートで覆ってから挿入した。 男性陣が女性の膣に向けて放ったコメントは、いつになく辛辣で棘がある。 曰く『クサいというか、痛い』『食べ物っていうか、ションベン。 公衆便所の方がマシ』『肥溜めに付け込んだパンツを被らされてる気分』『拷問』『味が無い所為で、噛めば噛むほど吐気しかしない』、臭いもさることながら味も不評で、口が爛れるやら涙が出るやら、匂いで人は死なないというが、これは例外かもしれない。 それでも男性陣は女性を助けるため、意を決して完食した。
5品目、缶詰製品『シュールストレミング』。 缶の中で発酵したニシンで、大量の尿素、アンモニアを内包する。 厨房で膣に缶詰の中身を入れて貰った女性が現れると、場の空気が一変した。 『食べ物の匂いじゃない』『口で食べるんじゃなくて、尻から出すべきもの』『腐りきった魚を腐らせてから、腐られたもの』『もう嫌だ』『……』1人が白目を向いて椅子から崩れ落ちる。 女性の膣の正面に位置した男性で、女性の膣が放つ薫りが直撃したためだ。 男性陣が『こんなに気持ちが悪いモノなんて見たくない』と呟きながら、女性の膣をフォークでつつく。 それでも、元々頼まれごとを引き受けるくらいだから、女性に好意を持っている男性たちだ。 悪臭にめげこそすれ負けることなく、最後の一欠けらまで口に収めた。
そうして合計10品目。 臭い料理を平らげる様子が全国ネットでオンエアされる。 今回の女性の場合、知人に恵まれたというべきだろう。 場合によっては碌に食べもしないで、是幸いと出演女性の膣をいじくる男性もいる。 底意地の悪さを発揮して、必要以上に女性を貶めるべく『マンコの方がクサい』『マンコに入れたせいで更にクサい』のようなコメントを残すものもいる。 今回の男性陣は、臭いを嫌がりこそすれ、終始女性に協力的だった。 そんな気づかいのお蔭だろう、女性は最後までくじけることなく、匂いの発生源になる務めを終える。 上位10品目を揃えて男性陣が安堵の嗚咽を漏らす中、番組ディレクターから『特赦』の免状が手渡された。 皿のお役御免となった女性を交えた出演者全員が、手を取り抱き合って悦ぶ。 飛んだり跳ねたり、大はしゃぎする様子を背景に『END』のテロップが流れ、番組画面は暗転した。
……。
匂い制限を受けるのは、男性も女性と変わらない。 というか、女性はまだ『2ch』という再起の機会があるだけマシだ。 保健所で『体の洗い方』を指導される屈辱を経れば、皆自分を洗う意識を高め、健全な市民に戻れるだろうし、ウマとして『モノ扱いされながら洗われる』ことで自然に匂いから解放される。 一方の男性。 悪臭源と判定を受けたものは、即座に国外施設で施術される。 発汗抑制、汗腺摩滅、腺抜埋立……軍の科学をもってすれば、強制的に匂いの素を断つ方法などいくらでもある。 男性は、一切の考慮なく、優秀でない個体――悪臭源が優秀とみなされるわけがない――は排除されるわけだ。 では何故女性はそうならず、手間暇かけた、回りくどいやり方で指導するのか。 それは、一言でいうと、強制施術が自然の道に反れているからだ。 市民へスムーズに復帰するならば、自然な身体であり、あらゆる可能性を排除せずにいる状態が望ましい。
女性には、多少肉体的な欠陥があっても、将来市民として活躍する可能性がある。 一方の男性は、肉体的欠陥すなわち遺伝子レベルの劣性があるなら、市民として存在する価値などない。 現在彼らを統治する主体・軍では、男性と女性で全く違う価値基準が適応されているのだった。