〈二人だけの宝物〉-24
「ヒック!ヒック!だ…誰にもッ…ズズズ…い、言えない…ッ…んぐ…英明さんにも…ッ…ヒックッ!…私…ご、ごめんなさい…!」
{うん……言えない事は無理に言わなくてもいいよ?俺ももう聞かないし……もうお互いに「ごめんね」は止めようか}
鋏は机の上に置かれた。
これは花恋を傷つける凶器ではなく、花恋の将来を見つめる母からの贈り物なのだから。
そして、あの曲は死出の旅路に流れる葬送曲ではなく、再び二人を繋ぐ《二人だけの宝物》へと昇華した。
英明の想いが花恋には嬉しかったし、そこまでの《存在》になっている事を痛烈に感じられたからだ…………。
『ふぅ……やっと鋏を置いたか……』
『ヤバいヤバい。輪姦(まわ)したくらいで自殺とか大袈裟だろっての』
盗撮カメラは生きていた。
そして花恋の一部始終を視ていた兄弟は、自殺を思い止まった花恋に、安堵の表情を浮かべていた。
『まさか、これ見たからって諦めたりしないよね、兄ちゃん?』
『当たり前だろ?まあ、ちょっとの間だけ“休ませて”やるけどな』
兄弟の歪んだ欲望は、花恋のあんな姿を見ても萎まなかった。
いや、なんの変化も見られなかった。
その精神状態は、あの店に貼られていたポスターの世界の住人と同じである。
それは架空世界でなら許されるが、現実世界では決して許されるものではない。
この現実では、彼等の行動は紛れもなく《凶悪犯罪》なのだから……。