第20話『田舎でオナろう!』-2
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『田舎でオナろう!』
番組冒頭、男子トイレでの1コマ。 30代後半の比較的若い『汚便女A子』――トイレ清掃業に従事する女性――がトイレの隅に蹲(うずくま)っている。 小便を済ませた、太った中年男性が、静かにペニスを振って残尿をはけている。 女性は蹲ったまま周囲の気配を探るが、男性が静かなため『男性は手洗いを済ませてでていった』と勘違いしてしまった。 便器を拭き掃除するべく起きあがったところ、ちょうど男性が逸物を仕舞おうとしており、男性器を直視してしまう。 女性は慌てて顔を背けるも、時すでに遅し。 男性器を直視したシーンはトイレに設置されたCCカメラに収められており、数時間後『汚便女』は清掃会社に『変態痴漢罪(男性器を覗き見した過度)』で呼び出される。 そこで示された選択肢は2つだった。 1つは『2ch』に出演して変態性癖を公開懺悔し、情状酌量を汲んでもらうこと。 もう1つは素直に『変態痴漢罪』で懲役に服すこと。 後者の場合は職業特権を利用した変態行為なため、懲役10年は下らない。 『汚便女』は前者を選び、ベソをかきながら出演することを承諾した。
〜民泊希望〜
番組出演を了承した『A子』に、『どんな田舎にいきたい?』とスタッフが尋ねる。 『A子』はカメラをしばし睨んでから、『……あたしの知り合いがいない所なら、どこでもいいです』と投げやりに呟いた。
〜宿泊交渉〜
郊外農村部。 日が暮れかかった河原で『A子』は解放された。 これから『A子』がすることは、自分が『2ch』に出演していることを秘密にして、『村人に自分のオナニーを鑑賞してもらう』こと。 他人の性器をみた罪は、自分の性器を見て貰うことでしか償えない。 どうせ見て貰うならしっかりオマンコを奥まで拡げ、あさましくオナニーする様子の一部始終を見て貰ってこそ、不意に男性器を覗かれた恥ずかしさに釣り合いがとれるというものだ。 通常であれば人前にオマンコを晒す行為は『猥褻物陳列罪』に問われるが、今回は『2ch出演中』なので特別に許可される。 ただしポイントは『A』ではなく『村人』だ。 『A子』のオナニーを鑑賞することになる村人には、これが『番組』なことを隠し通さなければならない。 村人からすると、他人のオナニーを見ることを明確に規制する法律はないけれど、既に『性行為全般』は禁じられている。 常識的に考えれば『オナニーを鑑賞する行為』は法律に抵触しそうに感じるだろう。 となれば『オナニーを見てください』と言われて、簡単に『ハイ、いいですよ』となるわけがなく――。 『わざわざ法律に触れる危険を犯してまで他人のオナニーを鑑賞してくれる奇特な人を探す』……そのために『汚便女』が四苦八苦する様子こそ、番組が撮りたい画(え)であった。
『A』からスタッフ1名が離れてゆく。 撮影交渉その他一切は、『A子』が自分でこなさねばならない。 スタッフはというと、遠くから望遠カメラで『A子』の様子を伺うのみで、お気楽な立場。 『A子』は急速に暗がりが侵食する田舎のあぜ道を、遠くにポツポツと明滅する灯りを目指して歩き出した。
道中、50代前半と思しき農家男性とすれ違う。 見慣れない『A子』を訝しんでか、足許から頭までジロジロ無遠慮に眺める農家男性。 『A子』はどうにかして話しかけようとモジモジしていたが、結局声をかけられずじまいで、農家男性は山の奥に姿を消した。 さらに1kmばかり歩いたところで、今度は50代後半の農婆が向かいからやってくる。 ここでも『A子』は逡巡するばかりで、俯いてしまって何も言えない。 農婆は不審そうにぐるっと『A子』の周辺を伺ってから、黙ってその場を立ち去ったが、『A子』は最後まで視線を合わすことすらできなかった。 30代後半は、トイレ掃除に従事する者としては比較的若い年齢とはいえ、世間的にいえばひとしきり下り坂を終えた年代だ。 肌の張りも艶も衰え、性器から自然に発散するフェロモンも今は昔。 『A子』にとって、自分は『アガリ』が迫った『女性』として終わりつつある存在だ。 そんな自分が、こともあろうに見ず知らずの他人に『オナニーを見て欲しい』なんてお願いしなくちゃいけない事態は、自分の身を守るためとはいえ、周囲が考える以上の葛藤をもたらすのだろう。