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《見えない鎖》
【鬼畜 官能小説】

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〈蜉蝣の飛翔〉-10

『ゆ、裕太さんも?良かった……』


母は初めて『お母さん』と呼んで貰えて、本心から喜んでいる。
瞳はウルウルと潤んでいたし、鼻先もほんのりと赤く染まっている。

コブ付きで再婚した自分を、光司の息子二人が母親として認めてくれた……その嬉し涙だった……。


『オヤジ、あれだろ?もう納期には間に合うんだろ?』


裕太は目頭を抑えている母を横目に、父に対しても明るく話し掛けた。


『今度の日曜日さ、お母さんと二人で出掛けてきなよ。いつも仕事ばかりじゃ頭がイカレるぜ?』

『し、仕事ばかりって……?』

(ッ……!!!)


父は裕太に差し出された物を見て目を丸くした。
花恋もそれを見て目を見開いた。
その手には数枚の一万円札が扇状に握られていたからだ。


(そッ…そのお金は……ッ!?)


さっき言っていた話……差し出されているそのお金は、下着を売って稼いだお金に違いない……花恋は両手で口を塞ぎ、驚きの奇声を抑えるので精一杯だ……。


『裕太…お前、どこからそんな金を……』

『俺だって黙って遊んでるわけじゃないよ。ちょっとした《バイト》してるんだ。いつか使って欲しくて貯めてた金だ。使ってくれよ、オヤジ』

『そんな……そんな気遣いなんてしなくても……』

『お、俺もちょっとは協力したんだ。たまには二人でゆっくりしてきてよね?』


健気な息子を演じる兄弟の思惑とは、日曜日に両親を自宅から追い出し、自分の身体を好きにしようとしているんだと分かった……母・貴子が感動しながら見つめているお金は、自分が《商品》にされて得たもの……それは非道な兄弟の謀った母娘への陰湿な侮辱行為であり、それを知ってしまっている花恋は、思わずダイニングルームから飛び出してしまった……。


(し…信じられないッ!酷いッ!酷すぎるよぉッ!)


ベッドに飛び込み泣き崩れていると、またトントンという足音が聞こえてきた。


裕太がしつこく絡んできたのか?


そう身構えた花恋の鼓膜を打ったのは、裕太ではなく母の貴子の声だった。


『どうしたの花恋。急に飛び出したりして……?』


何も知らない。
母は何も知らないのだ。
あの兄弟がどんな人間で、自分たち母娘をどれだけ心の底から軽蔑しているのかを。



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