〈特別な日〉-3
セミロングの黒髪は真っ直ぐに下がり、凛々しい眉と瞳は緊張感さえ感じさせる。
大人びた鼻筋はスラリと伸び、薄い唇だけが幼さを残している。
放屁など、とても想像しづらい美貌の持ち主の花恋だが、いくらアイドル顔負けの美少女とはいえ、生きていればこその生理現象は当たり前にある。
『花恋、ちょっと裕樹と出掛けてくるから。一人で留守番頼むよ』
「うッ!?うん!気をつけてね」
あまりのタイミングの良さに花恋は焦った。
だが、裕太も裕樹も何も言わずに階段を下りていく。
「き…聞こえてるわけないかあ……ハハハ」
外からシャッターの開く音が聞こえ、そして車の排気音も聞こえた……母親は父親の工場で働いててまだ帰っては来ないし、この家には花恋だけが残されている……。
(誰も…居ないのね……?)
花恋は音楽を止めると、ジーンズを脱いでベッドへ寝転がる。
ややダボついた半袖のYシャツと、しっかりと張った尻にピッタリと張り付くライムグリーンのパンティのコントラストが、誰にも知られずに鮮やかに映えていた。
(英明さん…ッ)
花恋が口にした名前……それは付き合っている同級生・松田英明という恋人の名だ……。
今週末の日曜日に約束したデートが待ちきれず、その寂しさを紛らわすように利き手の右手は股間へと伸びた……。
「……あッ…駄目よ……」
この妄想の中では、股間に触れる右手は自分のではない。
会いたくて堪らない英明の手だ……。
付き合って4ヶ月と少し。
曾て住んでいたアパートとこの家の距離は数キロしか離れておらず、生活環境は変わっても、生活圏は全く変わってはいなかった。
もう何度もキスはしたし、もうそろそろ……花恋にも備わる性への好奇心は、決して不埒でも不純でもない……。
(やだ……私…もう濡れてる……)
ライムグリーンのパンティは、股布を濃い緑色へと変える……それは花恋という美少女が、もう大人になりつつあるという《証》だ……。