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何もかもが終わった。
いよいよ観念したかのように、幸太はその場にヘナヘナと座り込んだ。
浮気なんて、するつもりは毛頭なかった。
だから、友人を介して知り合った望美には、恋人がいると最初から話をしていたし、向こうも向こうで『可愛い彼女さんで幸せですね』なんて美樹の写真を見ながら笑ってくれてたから、「相談に乗って欲しい」と持ちかけられても絶対大丈夫だと思っていた。
しかし、相談と称した密会も、時には雑談に逸れることもあるだろう。
酒も入れば、カウンターに座った席も少しだけ近づくだろう。
朝になって目覚めれば、隣に裸の望美がいたって、それは浮気じゃなく、本当に魔が差しただけだと思っていた。
だが、恋人以外の女と寝る行為は、一途だった幸太にとってあまりに背徳的で刺激的なものであった。
美樹以外の女の髪の香り、肌の質感、声、そして身体。
美樹しか知らなかった幸太にとって、それらは大量の脳内麻薬を分泌させることになってしまった。
その結果。
魔が差した、一夜の過ちと自分に言い聞かせていた幸太は、無意識のうちに望美の連絡先にコンタクトを再びとってしまったのである。
そこから転がり落ちるのは簡単だった。
二番手でいいからと、瞳を潤ませる望美と秘密を共有することは簡単だった。
彼女は幸太と共犯者になることで、美樹に優越感を抱いていた。
だから望美から自分に連絡しないことも、会えるのは平日の夜だけでも、望美の痕跡を決して残さないという約束も、彼女は全て守ってくれた。
だから完全犯罪は成り立つと、幸太には絶対の自信があった。
だが美樹からのメールで、それはいともたやすく崩れ去る。
そして、幸太は今になって初めて、悪い魔法から覚めたような、そんな気持ちになっていた。