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なまえ投影機
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僕だけにしか わからない夜空-2

 僕が今夜ドームに持ち込んだのは、特注で作ってもらった「なまえ投影機」だ。
 
 星座のなまえだけが投影されるという、本来プラネタリウムの副機能で使われるものだ。
 
 暗いドームの内側に、星座のなまえを記した文字が映し出される。いたって不思議な光景が広がる。
 
 僕は これを作るにあたって、古い圖案(図案)文字字典の字体を使って、旧仮名づかいで星座のなまえが映し出されるようにした。
 「をひつじ」だの「うしかひ」だの「みなみじふじ」だの、見る人はみんな、
 「なんで こんなふうにしたの?」
 と聞いてくる。
 理由なんかない。自分が特注したんだから、自分の好きなようにさせてもらったんだ。

 今夜僕は、投影機を限界の「北緯80度」にあわせて星座のなまえを眺めていた。
 この前 僕は、仕事のあいまに見た「ちゃんとした」プラネタリウムで、古代中国の天文観について聞いた。
 
 古代中国では、星空がひとつの国として扱われていた。
 北極星を中心とした、ずっと沈まずに見えている星たちの区域は、「紫微垣(しびえん)」と呼ばれ、天の帝たちが住む場所とされていた。
 そして、しし座を中心としたあたりの星たちは、「太微垣(たいびえん)」と呼ばれ、天の帝たちに仕えるひとたちがいる場所とされていた。
 また、さそり座の北にあたる部分の星たちは、「天市垣(てんしえん)」と呼ばれ、天の国のさまざまな役職につくひとたちがいる場所とされていた。
 
 僕は「なまえ投影機」がドームに映し出す、それら「三垣(さんえん)」のあたりの星座のなまえを見ながら、自分の心のドームにも なまえが映し出されるのを感じていた。
 
 


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