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なまえ投影機
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僕だけにしか わからない夜空-3

 僕のそばにいつもいてくれる、ママやパパをはじめとするひとたちのなまえ。
 僕がしょっちゅうお世話になってる ひとたちのなまえ。
 僕が仕事で出会った ひとたちのなまえ。
 ……でも、僕はドームに映し出されているなまえを、星座のなまえと置きかえる気はしなかった。

 (だって、別に誰も天にのぼったわけじゃないもん。)

 ふと、ドームのふちをかすめるように動いていく星座のなまえが目にとまった。

 オ リ オ ン

 冬の星座の代表……と言うより、すべての星座の中で王者格のオリオン座も、北緯80度の夜空では だいぶ立場が形無しになっているようだ。
 そのオリオンの文字が、黒く遮られた。
 (あれ……?)

 文字を遮ったのは、ひとの頭の影だった。
 「こんばんは〜 お楽しみのところ、すみませんね。」
 お隣さんの、某子の声がした。お隣と言っても地元のことだ。かなりの距離がある。某子と僕はずっと同じ分校だったし、高校も一緒だった。
 「帰ってきてると聞いたんで、おうかがいいたしました。」
 某子の口調は、いつもふざけた他人行儀だ。

 某「お久しぶりです。ご活躍は、いつもネットで拝見しておりますよ。」
 僕「こちらこそ……いつもドームをキレイにしていただいて ありがたいです。」
 某「いえいえ、わたくしこそ 勝手にドームを使って楽しませていただいておりますから。」

 某子はドームに映し出された星座のなまえを見回した。
 「おやおや、今夜は北極圏のなまえを映してるんですね…… 私の大好きな『ぢやうぎ(じょうぎ)』も『ばうゑんきやう(ぼうえんきょう)』も見えないでしょう……あ、でも『れふけん(りょうけん)』が見えてるなあ〜」

 某子のヤツも、だいぶ僕に感化されて この「なまえ投影機」の特殊な趣向にはまってきたようだ。

 ひとのなまえを、星座のなまえに置きかえたくはない、とは思ってたけど、某子だけは違うな。
 某子は「北極圏のオリオン座」だ。
 僕の心のドームの端、ギリギリいっぱいの位置にいながら、一番目立ってるヤツだから。


  【おしまい】



 
 


 


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