第14話『一般人格付けチェック』-4
今度は2頭を納めた箱の前正面についた小窓が開いた。 ぽよん、掴めば掌が沈みそうな、豊満な乳房が小窓から覗く。 2頭は体を箱の正面に押しつけて、乳房が小窓越しにはみ出される格好だ。 乳首、乳輪の色、大きさは両者ともに綺麗なピンク。 乳房の大きさも遜色ない。 そんな中、再び出演者に目隠しが配られる。
『第3問は『味』です。 軍馬は想像妊娠により、いかなる場所でもお乳の射精、すなわち騎兵への栄養補給、水分補給が可能になるよう訓練を受けてるんですよぉ。 普段は意識して乳腺を閉じてるけど、それでもほんの少しは乳首に味が残ってるんで、何の訓練も受けてない裸馬とは全く味が別物なわけでね。 もちろん、2頭ともここに来るまで色々運動してきてるから、お乳以外にも汗とか垢とかついてるんで、汗の掻き具合とか肌荒れの程度とか、そういうのも含めてどっちの味が軍馬なのか、しっかり味わって答えましょう』
司会者が、目隠しを終えた出演者から順番に首輪を曳く。 出演者にしても、大人しく首輪を引っ張られるがままについてゆく。 鼻の穴をポッカリ拡げ、オマンコマークのアイマスクをつけて引きずられる出演者は、どこか畜舎の豚を思わせる。 出演者は並んだ乳首の前で舌を伸ばし、触れた乳首を何度も舐めた。 【A】の乳首は柔らかそうな桃色をしていて、舐められるたび微かに震える。 適度に柔軟な乳首と舌先が絡まり、ねっとりした唾液が糸を引いた。 一方【B】の乳首は真っ赤に充血してシコシコに勃起していた。 舌が表面を這うたび、サクランボのように転げ、弾む。 とはいえ固すぎる乳首はすぐに舌から零れ落ちる。 また、おっぱい自体は舐められることに無反応、乳首の勃起具合に比べて対照的に落ち着いていた。 出演者全員が【A】と【B】に分かれたところで、司会者が正解を告げる。 正解は【B】の、固くシコッた乳首だった。
3問連続で間違えた出演者には『開口具』が渡される。 口に嵌めて閉じられなくする器具で、歯医者で見かける樹脂製のアレだ。 ひとたび装着するば唇が捲れ、歯茎が剝きだしになり、どんな上品な女性でも野卑た獣の顔になる。 『3流だなんて、有り得ない話だってわかってる? みなさん一流一般市民で、きちんと物の区別ができるから、裸馬にもきちんと対応してたはずなのに……なにコレ、全然ダメじゃない。 もう口をきく必要もないよねぇ。 3流のいうことなんて、誰にも信じてもらえないしぃ』 連続不正解者は『3流一般市民』の看板と共に、目をぎょろりと剝き、鼻の穴をパンパンに膨らませ、歯を剝きだしにした顔――要するに下品極まる顔を全国ネットで放映されることになった。
雛壇に戻り、三度目隠しをされた出演者たちの前に、ガラガラガラ、2頭を入れたケースが運ばれる。 これから司会者のお題に沿って嘶くので、どちらが本物の軍馬かを聞き分けだ。 最初に嘶く方が【A】になる。 司会者が出した1つ目のお題は『ありがとうございます』だ。 『おまんこぉぉぉぉぉ!』語尾を伸ばすように【A】が嘶く。 一方で『ぉまんッ!』、短くハッキリと嘶く【B】。 2つ目のお題は『ごめんなさい』だという。 【A】は、『おまぁぁぁんこぉぉ』……悄然とした情緒の籠った嘶きだ。 一方で【B】は、『ぉまんッ!』、先ほどと全く変わらない。 3つ目のお題は『ウンチがしたいです』。 【A】が『おまぁぁぁぁんこぉぉぉっ!』切なげに嘶く一方、【B】は『ぉまんッ!』と相変わらずな嘶きだ。 出演者たちは、全員が【A】の部屋に入った。 ところが司会者が入った部屋は、まさかの【B】。 『ぉまんッ!』の一言に含まれるホンの僅かな違いでもって、軍馬は感情を表現する。 そうするように躾けられている。 同時に騎兵にしても、その微妙さを聞き分けられるよう厳しい訓練を積み、軍馬と心を通わせた経緯があればこそ、一心同体の行動が可能になるわけだが――そういった機微は、出演者たちの理解が及ぶ範疇にはなかった。
4問連続不正解者に与えられた器具は『開創器』。 外耳道を拡張するための鉗子様具で、付け根にウマの耳を模したゴム飾りがついている。 『耳までイカレてるんじゃどうしようもないでしょー。 まさかとは思ったけど、正規軍馬さんの声すら聞き分けられないなんて、腐ってるっていうか、腐りきっちゃってるよねぇ。 どうせ聞いても何も頭に入ってないんだろうけど、せめて聞きもらすんじゃないよ。 いっとくけど、3流の下なんてないんだから。 いままでは『みなさん』だなんてヒトがましく扱ってやったけど、3流の次は、ウマ。 その耳飾りはウマの耳よ。 アンタらはもうヒトじゃなくなったの。 アンタらは番組が終わったら、速攻ウマになって、一から出直すんだ。 あとは『裸馬』になって出直すか、それ以下になって生まれ変わるか……どちらにしても、あと1問。 しっかり覚悟して答えるんだよ』
4問連続不正解者に対して話しかける司会者の態度は、うって変わって乱暴なものになっていた。 グルリ、2頭のウマを納めたケースが向きを変える。 高い場所に位置する小窓が開き、ファサリ、窓から艶やかな髪が現れた。 ちなみにウマは、軍馬から裸馬まで、全員髪を伸ばしている。 ショートヘアな者が、例えば裸馬になった場合は、その時点で発毛促進剤を投与して肩甲骨まで伸ばすことになっているので、最低でも肩口より下まで伸びた髪を備え、その上で普段は頭頂部で髪を括り、一巻きにして束ねている。 そんな2頭の髪を、見て、触って、香りを嗅いで……5感を活用することで、どちらが正規の軍馬なのかを見分けるのが最期の問題だった。