ン-6
舌と舌をからませて、徐々に唇を開く。
そこに合わせるかのように、主任のキスが深くなっていく。
絶対にこのキスは初めてじゃない。
そう確信できる程の自信があふれるキスで
私の身体を刺激する。
記憶が俺を思い出せないのなら
身体で俺を思い出せ。
そう舌が言っているようで、怖くなる。
大きな手が私の喉元を優しくなでて
ゆっくりと鎖骨を親指でなでる。
その行為が親密すぎて
私の頭が着いて行かなくなる。
一瞬だけ。
ほんの一瞬だけ、このままこのオトコに抱かれたい。
そう思ったけど、
相手は主任だ!
そう思った途端、思わず両手が主任の胸を押した。
「ィ・・ヤッ」
離された口から、考える前に出たその言葉に
ビックリした顔で私を見つめた。
「ごめ・・ん」
主任が髪をかきあげて、目をつぶる。
自分自身を落ち着かせるように小さく息を吐きだした。
「ごめん。理性が飛んだ」
いつも落ち着いていて
ほんの少し、皮肉な主任は
そんな、理性をなくすなんて考えられなくて。
私は私自身のキスを催促した行為にも考えられなくて
主任に何も言葉を返せなかった。
ネクタイをゆるめながら、部屋から出て行く主任を
ただただ見つめることしかできなかった。