第８話『売春メッセージ』-2
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『売春メッセージ』
『慰安婦改悛法』とは、『過去に性行為（挿入は勿論、前戯、口淫、接吻を含む）で【対価】を得たもの』のみを対象にしており、現在老齢だろうと未成年だろうと関係ない。 【対価】が伴わない『性行為』であれば新法の対象にならないため、『保健所』を訪れる年齢層は高めだった。 最も多いのは４０代の女性だ。 この国では『売春』が合法で、一時期は売春従事者が構成する組合まで存在した。 ゆえに若い身空をひさいでしまい、脛に傷をもつ女性は、４０代に限って言えば１パーセントに届く数だ。 これら膨大な数の売春婦たちが、自分たちが犯した罪を告白し、社会に対して真摯に謝罪し、もう一度社会人として受け入れて貰うために演説する――その様子をドキュメンタリー風に放送する『２ｃｈ』番組が『売春メッセージ』だ。
番組のオープニングは、『慰安婦改悛法』によって『保健所』に出頭しなくてはならなくなった女性たち――即ち過去に性産業従事経験がある女性たち――が『保健所』で自分の恥ずべき過去と向き合い、保健所職員に報告するシーンから構成されている。
『保健所』で最初にすることは『売春履歴書』の記入だ。 『初潮』『初体験年齢』『初体験相手』『初体験場所』『初体験理由』『初体験時の感想』に始まって、性行為５人目までは『対価』の有無を問わず『年齢』『場所』『理由』『感想』を記入させられる。 その後は『対価』を伴う『性行為の概要』を、業種別と年齢別に『１回当たりの平均金額』、『合計性行為金額』を、記憶が及ぶ限り列挙しなければならない。 カメラが『売春履歴書』に記入する女性をアップで映す。 一様に俯くが、容赦なく下から覗き込むカメラによって、氏名職業その他諸々がテロップになり、顔の脇に流される。 現在それなりの身分となり、堂々と生きている女性たち……そんな女性たちの隠すべき過去が容赦なく晒される。 『売春履歴書』を書く面々は、或は一児の母、妊婦、新婦、結婚式を控えた婚約者。 乃至は慈善団体の理事、教職員、校務員、看護婦、モデル、芸能人。 中にはシスターや禁欲を旨とする特定宗教徒、恋愛禁止のアイドルまで多士済々だ。 偉そうに社会の公道を歩いてきたくせに、裏では売春業に精を出した恥知らずたち。
履歴書の記述例が画面に映る。
『初潮９歳』『初体験１５歳』『いとこ』『体育館の用具倉庫』『お互いに発情したから』『痛かったけど嬉しかった』
『行為２人目』『１５歳』『いとこの兄』『いとこの家』『逞しい体に発情したから』『乱暴にされて怖かった』
『行為３人目』『１５歳』『いとこの兄の友人』『いとこの家』『色んな男の人とセックスしたかったから』『上手だった』
どれもこれも、目をそむけたくなるような、不埒で恥知らずな記述ばかりだ。
『２８歳レッドライト』『９０分分、ゴム付射精可、口内射精可』『１回１００ユーロ』『計５万ユーロ』
『２２歳サウナレディ』『１時間、手淫、口淫、素股可、ゴム付射精不可』『１回１５０ユーロ』『計６万ユーロ』
『２０歳コールガール』『３０分、生中射精可、口内射精可、顔射可』『１回２００ユーロ』『計８万６千ユーロ』
年齢が１歳上がるたび、単価が平均１０％下がるのが一目でわかる。 それと同時に、年齢が上がるほど過激な売春行為が蔓延り、時間も長く設定される傾向だった。
記入が済んだ『売春履歴書』を携えて、個別ブースで職員と１対１の面談が始まる。 『発汗』『心拍』『瞳孔拡縮』『息遣い』『シナプス閾値変動』、そして『脳幹サーモグラフィ』によって、面談時はどんな些細な嘘であっても瞬時に看破される。 嘘はつけない。 また、面接開始直後に『脳幹サーモグラフィ』で記憶の一部が映像化されており、映像と異なる行動をした場合も『嘘をついた』と判定される。 誤魔化す行為は厳禁だ。 面接風景の一部が放映されると、知的に並んだ横顔から、次々と恥知らずな言葉が紡がれていった。
『なぜ安易に、誰にでも股を開いたのですか？』『……お金が欲しかったからです』『お金は何に使いましたか？』『……ブランドもののバックや、欲しかった服をかっていました』『つまり、貴方の股は店舗販売の服飾品を買うために、拡げてもいいレベルの価値だったんですね？』『……そういうことになります』
『この書面だと、貴方は最低でも４００人の男性とオマンコした計算になりますが、宜しいでしょうか』『はい、相違ありません』『一回あたり、何度ほどピストンされましたか？』『……ご、５０回くらいだと思います』『では、貴方の持ち物は、少なくとも２万回以上縁もゆかりもない男性にオマンコされたことになりますが、宜しいでしょうか』『……は、はい』『そんな自分のオマンコから産まれた娘さんに対し、申し訳なく思う気持ちはありますか？』『……あります』『では、どうやって償うつもりですか？』『それは……』『償う予定はない、と？』『……いえ、正直に話して、謝りたいと思います』『ではどのように謝るつもりか、私があなたの娘だと思って、謝ってみてください』『は、はい。 あの……お、お母さんは貴方を産む前に……お、お父さん以外の男の人と、その、２万回以上、おちんちんを出したり入れたりして……し、していました。 本当に、ご、ごめんなさい』『それだけですか？』『えっ……あの、ええっと……』『射精された回数や、クンニリングスの回数、キスの数、男の人の身体をどんな風に舐めたかも、ちゃんと聞かせなくては謝罪になりません。 そもそもオマンコの感想がありませんし、なぜこんなにたくさん売春したのか、全く見えてきません。 もっと頭を使って、真摯な反省をするんでなくては、貴方の誠意に疑義を挟まざるを得ませんねぇ――』