第4話-4
「それは分かるよね、自分達が作った物だから…やっぱり壊したり解体してしまうのはイヤだよね」
「まあね…」
2人を乗せた車は、工場の奥にある研究施設に到着した。
研究課の施設は工場の1番奥にあった。他の施設とは違って独特の雰囲気が感じられた。
「課長は、いつも自分専用の部屋にいるのよ…」
やや口ごもった言い方でカオルは言う。ミヤギも研究課の課長の人柄は知っていた。少々近寄りがたい人物で、周囲からも少し距離を置かれている人物であった。
研究課の施設の中に入ると数多くのアンドロイドがガラス製の容器の中、液体に浸けられている。その辺の設備はタナカ・コーポレーションとさほど違わない。
1番奥の一角に、まるで施設の中に家がある様な作りの建物が見えて来た。
建物の横に玄関のチャイムの様なスイッチがあり、カオルがそれを押すと
「誰じゃあー」
と、声が聞こえて、中からボサボサの白髪で、背丈の低い年配の男性が現れた。
「どうも、こんにちは。オオタ課長」
ミヤギは一礼する。
「おおー、ミヤギ君では無いかー!それにカオルさんも久しぶりだのー」
「お久しぶりです課長様」
オオタ課長と呼ばれる人物は、ミヤギから一連の話を聞いて頷いた。
「まあ…ある意味、タナカ・コーポレーションを去ったのは正解かもしれないな…、そのアンドロイドに近付く手段としてはだな…」
「こちらにLコアSを搭載したアンドロイドがある筈です。それを使えば、多少なりともジュリに何らかの効果を与えられると思います」
「まあ…使って見る価値はあると思うが…正直、ワシとしても少し怖い気はするのだ。アレを動かすのに、どんなリスクが出るのか…?とな」
「やはり、危険ですか…アレは?」
「通常のアンドロイドの約1千倍、人間の1万倍以上の能力がある…と言う事は、普通に考えても恐ろしい程だよ、それが2つぶつかれば…何が起きるのかも分からない…全く未知の領域と言って良いだろう」
それを聞いてミヤギは感じた。過去にミヤギは、アンドロイドの性能をもっと上げるべきだ…と、会議の場で言った事がある。しかし…タナカ会長は、今以上の性能は不要と答えた。
その時は分かったが、改めて現実を目の当たりにして会長の言葉が頭を横切る。
(会長も、こうなる事を予測していたのかな?)
「とりあえず、LコアSのアンドロイドを見せよう、ちなみにアンドロイドは地下にある」
そう言って3人は、建物の地下深くへと進んで行く。
地下を降りた先に一体だけガラス製の容器の中、液体に浸けられているアンドロイドがいた。
「こ…これが、そのアンドロイドですか⁉」
ミヤギは驚いた表情でアンドロイドを見た。
「そう…コイツだよ」
オオタ課長は、満足そうな笑みを浮かべて答える。
夕暮れ時、ムラタとシライシはマンションにある公園のベンチに座っていた。オダ・シンの彼女と言う人物を見る為であった。公園で遊ぶ子供達を見てシライシは溜め息混じりに言う。
「良いよな子供達は…気楽で俺も子供に戻りたいよ」
「フン、俺は子供だった時の事なんか覚えてないよ」
「イヤァ…僕はムラタさんの子供時代が想像出来ませんよ、生まれたの平成でしったっけ?」
「テメェ〜!」
そう言ってシライシの襟首を掴もうとした時に、目の前に子供が居る事に気付き、大人しそうにベンチに座り直す。
「で…お相手さんは、まだ現れないのですか?」
「多分…もう直ぐ来る筈だ…」
そう言っていると、公園で遊んでいた子供たちが何かに気付き、マンションの方へと走って行く。
「ジュリ姉ちゃんー」
「ジュリ姉ちゃんー」
大声で子供達が1人の少女に会いに行く。
「私100点とったよ」
「僕、ジュリ姉ちゃんのおかげで漢字が得意になったよ」
「ジュリ姉ちゃん、私最近調子がおかしいの診てくれる?」
ジュリは少し困った様子で
「1人ずつにしましょうね」
「どう見ても彼女のようだな…例のオダ・シンの恋人って言うのは…」
ムラタが、そう言ってジュリに近付く。
「すみませんジュリさん、私は週間誌の記者をしている者ですが…ちょっと、お時間を頂けますか?」
「皆…ゴメンね、ちょっと話がある見たいだから…あとでね」
子供達は残念そうな表情で、ジュリを見つめる。
公園のベンチに3人で座ると、ムラタはペンと紙を用意してジュリに話し掛ける。
「随分な人気者ですね」
「それほどまででは無いですが…」
ジュリは微笑みながら言う。風が拭き、ジュリの長い髪が靡き、それを整える仕草を見たシライシは惚れてしまった。
「聞くところに寄ると、貴女は随分と知的で頭も良く、綺麗だとの評価がありますね」
「それは、ちょっと褒め過ぎです」
ジュリは笑いながら答えた。
「では…それほどでは無いと言う事でしょうか?」
「ハイ、私は単なるアンドロイドに過ぎませんし…」
その言葉に2人は驚いた。ムラタは、今日…シライシに向かってアンドロイドは無表情であり、感情のある者がいれば、それは…もう生体と言っても良いと言ったが…そうと呼べる者の存在が目の前に現れたのだった。
「ハハ…ご冗談を…」
ムラタは苦笑いしながら答えるが…
「少し能力を見せましょう」
そう言ってジュリは、手を伸ばしてムラタのWBを触る。そして軽く指を動かすと、ムラタのWBの画面が拡張されて、保存してあるデータの数々が彼等の前に現れる。
「うわ…凄い!」
「信じられん…」