第3話-6
「え…?」
「我が社が総力を挙げて作ったアンドロイドは、我が社に強力なウイルスを送り付けて、彼女に関する情報を全て抹消させてしまい、捜索出来ない状況にしてしまったんだ。我が社の会長は捜索を打ち切り、彼女を追わない事に決めたのだ」
「では…貴方は何故、僕と一緒にいるのですか?」
「知りたかったのだ。彼女の事を…何故アリサは君を選んだのか?君と一緒に居て彼女は今、何をしているのか?とか…そう言う事を聞きたかったんだ」
少しシンは落ち着いた気分になり、ミヤギこれまでの経緯を伝える事にした。
2人は飲み屋を出て少し歩き出す。
「君が安全な男性で良かったよ。彼女が持つAIシステム…我々の間では『LコアS』と言うネーミングで呼ばれているスペシャルコンピュータ・システムは。一般的に提供しているアンドロイドの数千倍もの性能を引き出す事が可能だ。タナカ・コーポレーションが総力を上げて独自開発した最先端テクノロジーの結晶であり、世界にまだ3個しか存在しない、そのうちの1個がアリサに搭載してある。とても巨大で、その性能がどれ程なのかは未知数であり、まさに天井知らずだ。その気になれば世界中のコンピュータシステムのデータさえ書き換えてしまい、現代社会の秩序さえ狂わせる事も可能だよ。しかし…今、こうしていて何も起き無いのは、彼女が君と一緒にいて安心して暮らしている証拠とも言えるがね…」
「そうですか…1つ聞かせて下さい。これから貴方は彼女をどうするつもりですか?」
「彼女は多分、君との関係は誰にも邪魔されたくないと思っている。我々が介入すれば、彼女はあらゆるやり方で、我々を追い出すに違い無いと思う。実際…君も今日、その目で見た筈だ。彼女は、我々が動いた事に敏感に察知して先手を打ったんだ。我々は何もしない状態で引き上げさせられる目にあったのだよ」
「では、彼女との関係を続けさせてくれるのですか?」
「残念ながら、そうとも…言い切れない。いずれ何か起きるかもしれないが、その時は気を落とさないで欲しい」
「それは一体…?」
シンはそう言ってミヤギを見つめる、ふと…ミヤギの視線が自分で無く別の方に向かれている事に気付いたシンは後ろを振り返る。
そこには白いワンピースを着た少女ジュリが立っていた。
「シン、何しているの?」
「ジュリ、何でここに?」
「貴方の帰りが遅いから心配になって来たの」
「大丈夫だよ、ちょっと君の事に付いて話をしていたんだ」
それを聞いてジュリは、前に進み出てミヤギを見る。
「ミヤギ!貴方、まだ私を追うつもりなの⁈」
「イヤ…追わないさ、我が社は君への捜索は打ち切ったんだ」
「ならば、今直ぐに消えなさい。さもなくば…」
ジュリの体から見えない大気が発生しワンピースや長い髪が揺れ出す。右手には不思議な発光が浮き上がった。
右手を伸ばして発光が発射されると、近くにあった駐車場のコンクリートの壁に「ボンッ!」と大きな音を立て当たり、砂煙の中…壁に大きな穴が開いた。
「辞めろジュリ!」
そう言われるとジュリは、落ち着きを取り戻す。
大きな物音ともに付近の民家から犬が吠え、気になった住宅から明りが灯される。
「今後、彼に無断で近付いた場合、私が貴方を許さないから」
ジュリはシンの手を引っぱり
「行きましょう」
と、一声掛けて暗闇の中を去って行く。
誰もいなくなった闇の中、ミヤギは1人残っていた。
「電子波動に空気弾か…、次は何が出て来るんだ…?」
もしかしたら…とんでも無い者を相手にしてしまったのかもしれないと、そう心に感じてもいた。
シンとジュリは手を繋いで一緒に歩いて行く。
「ところでジュリ、どうやって僕の場所が分かったんだ?」
「フフ…どうしても知りたいなら貴方に話すわ」
「まあ…ちょっと知りたいね」
〜約30分程前…
図書館から借りて来た本を全て読み終えたジュリは、貸し出し用のバックに本を戻して時計の針を見る。時刻は夜9時を指す所だった。彼女はシンが好きそうな料理を用意して待っていた。
(遅すぎるわね…)
何処に居るのだろう…と思ったジュリはPCの電源を入れて、モニターに手を付けると、そこからシンのWBのコードを拾い居場所を突き止める。
(見つけた…ん?)
ジュリは付近に居る者のWBも感知して、そのコードを読み取るとタナカ・コーポレーションに関係する人物と情報が出た。
(タナカ・コーポレーションがシンに直接近付いて来たのね)
ジュリは急いでマンションの部屋を出る。廊下を走りながらメインシステムのリミッター解除を行う。その瞬間、ジュリの脚力が倍増された。通常の人間の数倍もの速さで走り出す。
目の前に非常階段が見えて来て、それを飛び越えて壁を上手く蹴って落下速度を緩めながら地面に着陸を目指す。
塾帰りにマンションの裏側にある自転車置き場から、マンションに向かおうと仲良く歩いていた女子中学生2人組…。彼女達は仲良く楽しそうに話をしながら歩いていた。
「そう言えばさ…ウチの隣の人、最近…恋人が出来たらしいのよ」
「え〜…まさか、あんな人にも恋人が出来るの?」
「今日ね学校から帰って来た時にママが言ってたのよ、相手かなり美人らしくて2人で手を繋いで出掛けて行ったって」
「へえ〜結構やるじゃない」
彼女達が話をしている中…突然、目の前に着地した白い衣服の少女を見て「キャッ!」と、驚いた。
少女は周りの事など気にせず瞬時に走り出す。
突然現れて、人間並とは思えない速さで走り出した少女に女子中学生は唖然として見ていた。
「今の子…上から降りて来たよね…」
「でも…この辺には階段なんて無いよ…」