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おやすみなさい
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おやすみなさい-8

…母…さん
おば…あ…ちゃん
みっ…ちゃ…ん
…義…母…さん…

「えっ…?」

ふと懐かしい声に呼ばれた気がして、私は走っていた足を止めました。
振り返っても、つづくのはただの田舎道。誰もいません。けれど、誰かに腕を引っ張られた気がしました。




「母さんっ母さんっ」

気が付けば、雨の匂いがしていた筈なのに、消毒の匂いが私を包みました。
さっきまで立っていた体は、横になりいくつかチューブが繋がれています。

軽かった体は、寧ろベッドに重く沈み。高い声を出そうにも声すらまともに出ません。
何より、息子夫婦と孫が泣きながら叫ぶ姿がぼんやりと見え「帰ってきた」のだと、直感でそう思いました。

皆の様子から、私は危ないのだな、と外から見ている様な感覚で思いました。
マサはどうなったのでしょうか?
確認しようにも声も出せず、また瞳は閉じようとしています。

「みっちゃん」

その声に私は、夢心地の世界から戻りました。私をみっちゃんと呼ぶのは後にも先にも一人だけだからです。

ぼやけた視界で見えるのは、知らない高齢のお医者さんでした。けれど、その手はぎゅっと私の皺々の手を握って話しません。

マ サ

私は声にならない声で、そう呼びました。そのお医者さんの手に、一人の少年と同じ細い傷が見えたからです。

私は、ゆっくり目を閉じました。

まだ、やりたいことは一杯あります。
お花の水を変えないといけないし。
孫の成長を見なければいけないし。
息子に治して欲しい癖も伝えてません。
お嫁さんにまだ私の特製料理を教えてません。


だけど、一つ人生の後悔が減って少し安心して眠たくなりました。
だから少しだけ、眠らせて下さい。
ほんの、ほんの少しだけ。



おやすみなさい


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