卑劣で最低な男-1
【卑劣で最低な男】
勢いよく開いた扉から、真希が顔を覗かせたので、予想外のことに潤は戸惑った。
「えっ?」
この日、真希のクラブ活動が休みだったとは潤は知らなかった。まさか、鉢合わせした娘に向かって、母親からセックスを誘われたと言えるわけもなかった。
「あっ、ごめん、家を間違えた」
そういって帰ろうとする潤の腕を真希は掴んだ。
「間違えてないよ。潤くんはあたしが呼んだんだよ」
汗ばむ手で腕を掴まれ、さらに潤んだ瞳で見つめられた潤はドキッとした。
「聞きたいことがあるの。さっ、入って入って」
意表を突かれた潤は、促されるまま家の中に入っていった。
居間に通された潤は、当然ながら中の様子に驚いた。髪を乱し、泣き腫らした顔の真奈美が床に正座させられていたからだ。
「一体どうしたの?」
潤に問われた真奈美は、目からボロボロと涙を流しながら、声を圧し殺して泣き出した。
「あ〜あ、また泣き出しちゃった」
真希の軽い口調に違和感を覚えた潤が真希に詰め寄った。
「一体何があったんだよ!」
「怒らないで!」
この日、自分の想像力のキャパを越えた出来事が起こり、心が張り詰めていた真希は、潤の強い反応に思わず声をあげてしまった。しかし、相手が潤だったと思い直して、心を落ち着けようとした。
「ご、ごめんなさい。ちょっと潤くんに聞きたいことがあって…」
「なんだよ」
気持ちが高ぶったまま真奈美に命令して、潤を呼んだのだったが、想いを寄せる相手とこうして面と向かって話すのはこれが初めてだった。胸が詰まって躊躇しそうに成ったが、やはりこれだけは確認しないといけなかった。
「潤くんとお母さんがエッチしてる画像を見たの。あとエッチな内容のメールも…」
それを聞いて潤は顔をしかめて真希を睨んだ。その表情がなにを意味するのかは判断がつかなかったが、真希はそれを見なかったことにして話を続けた。
「で、お母さんは潤くんに無理矢理犯されたって言うんだけど、それって本当なの?それと、エッチな画像を盾に無理矢理関係を続けさせられてるって」
真希は勢いのままに、一気に話した。
「真希はどう思ってるんだよ?」
「真希…」
思い焦がれる人に呼び捨てにされた真希はドキドキした。これがこの場と全然違う、もっとロマンチックな場所ならよかったのにと真希は残念に思った。
「あ、あたしは、性に興味を持ち始めた潤くんに、この女とその仲間がそう仕向けたと思ってるのよ」
真希が真奈美に向かって言った【この女】の言葉の中に含まれた険と蔑みを感じて、潤は今の状況を理解した。