第29話 研修、修了式-3
肩を竦めながら話している座席がある。 その後ろでは、
「やっと終わった……って感じだよ。 もうクタクタ……早く寮に帰って先輩に会いたい」
「昨日からずっとソレばっかだね。 先輩、先輩って……戻ったら夏休み中ずっと一緒なんだから、少しくらい離れた方が気楽じゃない?」
「えっ、全然そんなことないよ。 そんな風に思ってるの?」
「そりゃ……だって、ねぇ? たまには先輩のチツマンコ舐めずに寝たいとか、あるじゃない。 毎晩おしっこたらふく飲まされてるんだから、そういうのがないだけでも、研修のがマシかもだよ」
「全然逆だよ〜。 先輩のを呑まないと一日が終わらないっていうか、落ちつかないっていうか……あたしにとったら大切な儀式だから、なかったら全然眠れないよ。 早く帰って先輩におしっこいただかなくちゃ。 それもしっかり4日分、たっぷり欲しいな〜」
「……本気でいってんの?」
「うん♪ 一滴残らず飲み乾すの♪」
「うっわー……」
明るくはしゃぐ少女対し、軽く引いている少女がいる。 さらに後ろでは、
「お疲れさま。 がんばったよね、私達」
「うん……さっちゃんが頑張ってくれたから、あたしも最後まで頑張れた。 あの、ずっといえなかったけど……一緒の組になってくれて、嬉しかった。 助けてくれて、あの、ありがとう」
「なにいってんだか。 御礼をいわなきゃなのは私だって。 そもそも一番頑張ってたのは絶対くんちゃんだもん。 いつもしんどい役目ばっかり振られて、嫌な顔ひとつしないでさ。 くんちゃんがずっと泣かなかったから、私だって我慢できたんだよ」
「そんな……あたし、何も頑張れてないよ……ずっと黙って隠れてただけだよ」
「またまたぁ、謙遜はなしにして。 最後の出店のときだって、くんちゃんだけずっと倒れずに踏ん張ってくれて、一番ボールぶつけられてさ……ごめんね。 ほんとごめん。 本当だったら3人で踏ん張らなくちゃいけないのに、私なんて気絶しちゃって……偉そうなこといって、もう、どうしようもなくて……ぐすっ……ごめんなさい」
「や、やめてよさっちゃん……当たり前だよ。 顔にボールぶつけられて、立ってる方がおかしいよ。 たまたまあたしがお尻にボールをぶつけられる役だっただけで……謝るのはこっちだよ。 あたしがちっちゃいから、楽な役回りって思ってあたしにお尻役を振ってくれたの、ちゃんと分かってるから……だから、もう謝るなんてよそうよ。 こっちこそ、ありがとうって思ってるよ?」
「ぐすっ……そういうことにしてくれると、嬉しいな……じゃあお言葉に甘えて、そういうことにする」
「それでいいと思うよ! その方がさっちゃんらしいもの。 あたし、あの、さっちゃんと同じ組で本当によかった」
「……ありがと。 私もだよ」
トントン、お互いの肩をそっと抱きしめる2人がいる。
それぞれの座席の会話には、調子に差はあれど、不思議なことに悲壮な様子は見当たらなかった。 研修を笑い飛ばすにしろ、互いの頑張りを称えるにしろ、学園の授業と比べるにしろ、暗い面もちは1人もいない。 それこそ模擬店で演じた笑顔ではなく、肩の力を抜いた自然な微笑みが、そこかしこに散らばっている。
やがて10人の少女が順番にバスの先頭座席へ進み、活動内容を報告した。 どれも耳を疑うような内容だ。 けれどもそれを語る少女たちの口調には……悲惨な体験を噛みしめる苦味ではない。 既に学園生徒として半年を経た少女たちの口調には、むしろ自分達が乗り越えた達成感が滲んでいたのだった。