第4話『素人ドッキリマル秘報復』-2
道徳の時間は、いつも通り『2ch』を鑑賞した。 タイトルは『素人ドッキリマル秘報復』……『セクハラ防止法』に違反した市民が対象で、違反者の周囲全員が仕掛け人になり、セクハラされたも被害者に代わってドッキリを仕掛ける内容だ。 個人的には『ドッキリ』なんて生易しいレベルじゃなくて、完全にイジメっていうか、犯罪だと思うけど――『2ch』で放送してるってことは、つまり軍が噛んでいるわけで。 だとしたらお咎めはなしなんだろう。 こんなの見せられたら、もう二度と男子を揶揄(からか)えない。 男子と話すだけで緊張でおかしくなっちゃいそう。
正午、定時に政見放送だ。 今日の法律は『環境保護法改定条項、排泄制限法』といって、個人の水資源使用を節制するため、1日にトイレを使う回数は『2回』以内に決められてしまった。 てっきり大きい方かと思っていたら、オシッコも含めてたったの『2回』だ。 家、学校、公衆トイレ、どこであろうと1日2回までしか使ってはいけない。 使う時は便器のセンサーで認証しなくちゃいけないから、全便器の改装が終わる10日後から施行するそうで……毎日毎日新しい法律が飽きもせず追加されて嫌になる。 嫌っていうか泣きたくなる。 泣いてもしょうがないから黙ってるけど……あたしだってみんなみたいに泣き喚いて、スッキリしたい時はある。 ただ何となく、我慢できるうちは我慢しようって思ってるだけで、いつプッツンしてもおかしくない。 それはきっと、誰にでも当てはまることと思う。
……
『素人ドッキリマル秘報復』
被害者。 男性公務員(38)。
依頼@:『スポーツインストラクターの女性A(28)に脇が臭い、体臭がキツいと指摘され、辱められた』
ドッキリ内容:『女性の持ち物すべてに悪臭剤をかけ、悪臭まみれにする』
朝、女性Aの職場デスクに、同僚全員で『膣滓芳香』の特殊スプレーを散布。 女性が出社し、自分の机の異臭に気づく。 怒って周囲に異常を訴えるも、周囲の反応は冷淡で、みんなから『貴方の匂いでしょ。 いつも臭いわよ』と逆になじられる。 動揺し、呆然とする女性A。 その隙に同僚女性が更衣室に入り、女性Aのロッカー、下足箱に特殊スプレーを散布。 やがてインストラクター業務用のレオタードに着替えるべく、女性Aが更衣室にやってくる。 自分のロッカーを開けた瞬間、後ろにとびずさってロッカーを閉める。 明らかに挙動不審で、息も荒い。 周囲では同僚のインストラクターたちが、女性Aの傍で更衣する。 異臭は周辺に及んでいるはずなのに、誰も何も言わない。 女性Aは隣で着替える同僚に『ねぇねぇ、な、何か変な匂いしない?』と尋ねた。 『は? 何いってんの? アンタのマン臭でしょ。 今更臭いもなにも無いでしょうに』、身も蓋もない返事が返ってくる。 女性Aはしばらくロッカーを開けたり閉めたり繰り返してから、明らかに異臭を放つレオタードに更衣した。
スポーツジムは客も従業員も全員が女性Aのドッキリに加担している。 鼻を摘まみながら女性Aの後ろを通り過ぎがてら『あー、今日も臭いマンコが来た』と呟く従業員や、『あの人が来ると集中できないんだよなぁ、ちゃんとアソコは洗ってんのかなぁ』とため息をつく客の視線を浴び、所在なげにウェイトマシンを弄ったり、ルームランナーで汗を流して時間を潰す。 既に客に指導する気力はない様子だ。 しばらくジムをウロウロしてから、逃げるようにトイレへ駆けこむ。 女性Aは、あろうことかトイレの芳香剤を掴んで自分の股間に擦りつけた。 けれどレオタードに染みつけられたスプレーの『膣滓芳香』は、そう簡単に消えるわけがない。 チーフ・インストラクターにトイレへ行ってもらい、早くジムに戻るよう女性Aを叱らせる。 さっき女性Aが触ったルームランナーやウェイト・マシンには、既に特殊スプレーが噴霧してあった。 客が『うわっ、このマシン、絶対Aさんが使ってるよ。 匂いで解るもん』などと聞こえよがしに騒ぎ、実際に女性Aが匂いを嗅ぎにいくと、当たり前だが超絶にクサい。 先ほど自分が使っただけでこんな風な匂いがすると思い込めば、もはや女性Aに居場所などない。 ジムの隅にいって蹲り、顔を自分の膝に埋める。 強烈な匂いに苛まれるはずだが、クサいマン臭を発している顔を見られるよりは、自分で嗅いでいる方が気が楽なのかもしれない。 もしくは、既に鼻が麻痺して、自分のクサさが気にならなくなっているんだろうか。